yumulog

北海道の大学教員/情報科学研究者の日記

北大CoSTEP選科B集中演習「サイエンスライティング」を受講しました #costep

f:id:yumu19:20201011180832j:plain

10/10(土)-11(日)の2日間でCoSTEPのサイエンスライティング演習を受講し終えました。本来は3日間北大に集まってやるものなんですが、今年はZoomを使ってオンラインで2日間開催されました。初オンライン開催で、例年とはいろいろと形式が異なるようです。

CoSTEPの選科は、基本的には講義の受講のみですが、年に1回だけ集中演習があります。AコースとBコースに分かれていて、Aが「サイエンスイベント企画運営」、Bが「サイエンスライティング」です。CoSTEPに応募する4月の時点でどちらのコース希望か決めないといけないのですが、その時点でAの日程は受講できないことが確定していたので、B一択でした。

サイエンスライティング演習、すごく楽しみにしていました。その一方、仕事柄、論文や研究費申請書類などを書く機会が多く、また、大学院生の論文執筆指導のため書くことについて普段からいろいろ考えているということもあり、演習で学べることがあるのだろうかというやや斜に構えた気持ちもありました。もちろん後ろ向きな気持ちでは学べることも学べないので、なるべく多くのことを学ぶ姿勢で臨みましたが。結果的には、予想を遥かに上回るとても多くのことを学びました。

課題文の執筆

サイエンスライティング演習のメインタスクが課題文を書くことです。科学技術に関するテーマを自分で見つけ、1600字程度の文章を演習中に完成させます。課題文は、テーマ選択は自由ですが、「義務教育修了程度の人が関心をもって読み、その内容を理解して、何らかの 行動を起こせるような文章」という設定となっていました。演習開催の1週間前、初稿を提出します。その文章が演習期間中にレビューされ、推敲を重ねていくという流れです。

行動変容を促すことが課題文の設定となっていて、テーマ選びがなかなか難しかったのですが、最近自分がよく使っていて周りの人にもおすすめしたい音声入力での執筆について書くことにしました。課題文は受講者同士でレビューして読み合うため、まさに執筆をやっている最中の人が読むことになるので、執筆に関する内容は興味を持って読んでもらえるだろうという狙いもありました。課題文のタイトルは「音声入力で執筆が変わる 〜音声入力執筆の現状とそれを支える音声認識技術〜」。初稿のタイトルは別のものだったのですが、何度か変遷を経て、最終的にこのタイトルに落ち着きました。

初稿では、音声入力を試しに使ってもらうという行動変容に注力して書き、音声認識の技術的背景はほとんど書かなかったのですが、レビューコメントをもらって技術的背景についても追記していきました。私は情報科学研究者なのですが、音声認識については全く専門ではないので、解説記事や論文を読み、ひとつひとつ調べながら書きました。専門ではない分野について調べながら書くとのはまさに科学技術コミュニケーションにおけるサイエンスライティングだと感じました。課題文はWebで公開してもよいのかよくわかっていないのですが、せっかく頑張って書いたものなので、後日どこかで公開できればと思います。

良い文章が書けたなと思ってわりと満足していたのですが、2日間の最後の振り返りで他の参加者が言っていた「答えのないものを書く」「忖度せずに書く」といった意気込みを聞いていると、この程度で満足せずにもっと良い文章を目指さないといけないなと思い直しました。もっと良い文章を書いていきたいと思います(今回の課題文ではなく別の機会に)。

その他の演習内容

受講者同士で文章を読んでコメントをつけるピアレビューも1周やりましたが、例年の対面形式ではもっとたくさんやるらしいので、少し物足りなく感じました。演習は班に分かれての作業で、進め方は班によって違うので、他の班はまた状況異なると思います。

サイエンスライティングに関する講義もあります。集中演習期間中に受講するものと、事前にビデオ受講するものがあります。「論理的とはどういうことか」「なぜ論理的に書くことが必要なのか」「デザインとは」などなど、なんとなく無意識にやっていたことが言語化されたり、わざわざ考えることのなかった問いを改めて考えるなど、非常によかったです。

演習初日の最初には、アイスブレイクも兼ねた文章デッサンのワークを行いました。お題として示されたある絵を見てそれを文章で書きます。他の人がその文章を読み、内容から元の絵を想像して書きます。絵と文章を使った伝言ゲームみたいなやつですね。これはすごく良かったですね。全体像を示してから細部を示す、詳細すぎる情報は切り捨てる、物事の位置関係を示すなど、文章を伝えるための重要なスキルをすごく意識させられました。これはライティングを指導するような機会があれば実践したいと思いました。

「サイエンスライティング」と「サイエンティフィックライティング」の違い

この演習で学ぶのはサイエンスライティングです。一方、似て非なるサイエンティフィックライティングというものもあります。なにが違うのでしょう?editageの記事に書かれていたこちらを引用します。

私が言う「サイエンス・ライティング」とは、科学について非専門家向けに書くこと(大衆紙の記事など)を意味します。一方、「サイエンティフィック・ライティング(scientific writing)」と言うときは、科学者対科学者のライティング(学術ジャーナルの論文、補助金申請書類など)を指します。

論文執筆時のミスを防ぐには―投稿規定をよく読み、幻想を捨てる | エディテージ・インサイト より

サイエンスライティングでは切り口を決めるのがすごく重要であることを実感しました。講義では、ノーベル賞の報道について触れられていました。ノーベル賞のニュースは、同じ日の同じ新聞でも、一面、経済面、社会面などいくつかのページで取り上げられます。これらの記事は、それぞれ違う記者が、科学的成果の内容、経済的影響、社会的影響、倫理的問題など違う観点に着目して様々な切り口で書いています。

7月にもサイエンスライティングに関する講義があり、そこでも独自の切り口で書くことの重要性が示されていて、あわせて独自の切り口で書いた記事が例示されていました。ただ、その時には、「独自の切り口で変わった記事を書かずに、直球の記事を書けばよいのに」と感じ、あまり重要性を理解できていませんでした。しかし、先述したノーベル賞の話を受けてこの記事のことを思い返すと、記事の役割はそれぞれあり、直球の記事を書くのはまたその役割を担う別の記者がいるのだと気づきました。題材が同じであったとしても、それぞれの切り口で捉えることがサイエンスライティングなんですね。

一方、サイエンティフィックライティングである論文では、ディスカッション部分などを除いて基本的には主観を排除して事象を客観的に明確に書くことが求められます(主に理工学系にて)。サイエンスライティングとサイエンティフィックライティングという一見似ているものでも、書く原理が大きく違うのですね。どちらの文章を書くこともあるので、書く際には強く意識しないといけないなと思いました。

論文でも、レビュー論文・サーベイ論文という種類の論文では、独自の切り口が重要なので、サイエンスライティングに近い面はあるのかもしれません。補助金申請書類は、先ほど引用した説明ではサイエンティフィックライティングの扱いになっていましたが、実際には異分野の審査員が見ることも多く、非専門家に向けた内容で書くことが多いので、サイエンスライティングとして扱うほうが適切かと思いました。そして、ちょうどいま科研費申請シーズンですね。サイエンスライティング演習の成果を生かして科研費申請書類書きます。。。

感想

すごく楽しかったです。最近、あまり人と会ってない話しをしてないせいもあるかもしれません。懇親会も楽しく参加しました。特に、某先生が起こしたいくら事件が面白かったです。なめらかに流れ落ちるいくらの様子が忘れられない。

対面でできるとより楽しかったのだろうという思いは当然ありますが、家にいながらにしてこんなに密度の濃い時間をすごせたのは改めてすごいと思いました。選科Bの集中演習はこれでおしまいで、実際に会う機会があるとしたら、あとは修了式です。開催形式はまだ決まっていないようですが、現地で会えるといいですね

P.S. 音声入力の執筆について

この記事ももちろん音声入力を使って書いてます。音声入力は2,200字で20分でした。その後の推敲には1時間50分かかりました。推敲のときに書き足す内容がけっこう多かったので、いつもよりも推敲に時間がかかっています。最終的に約3,600字の記事になりました。

音声入力の前につくる箇条書きメモはこんな感じです。終わった直後にこの感想記事かくつもりだったので、演習中に少しずつメモを書き溜めていました。 f:id:yumu19:20201011205151p:plain

このメモを元に、音声入力で執筆した最初の文章がこんな感じです。 f:id:yumu19:20201011205013p:plain

音声入力での執筆、便利なのでぜひ使ってみてください!Google Docsがオススメです!