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北海道情報大学に准教授として着任し研究室を立ち上げます

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本日2021年4月1日付けで北海道情報大学 情報メディア学部 情報メディア学科に准教授として着任します。任期なしです。教員1名で独立した研究室を運営します。

北海道情報大学は北海道江別市にあります。札幌のすぐお隣です。

荷物搬入などのために、すでに今週月曜から通い始めていました。 f:id:yumu19:20210330184304j:plain f:id:yumu19:20210330184039j:plain

学内にセイコーマートがあるのがめちゃくちゃ便利です!ホットシェフもあります!!!! f:id:yumu19:20210331100839j:plain

北海道情報大学には、学校法人と同じグループの企業に 宇宙技術開発株式会社(SED) という宇宙系のシステム開発会社があり、情報系の大学でありながら宇宙科学系の教員が何名かいます。私は学部(北大)時代に地球科学科で宇宙プラズマの研究をしていたのですが、その時の指導教員である 渡部重十 先生が北大での定年後に情報大に移り、現在副学長とシステム情報学部 学部長をやっています。そして、私と同じ学科には、北大渡部研での先輩の柿並先生がいます。師匠筋のポジションに就くことはアカデミアではよくあることかと思いますが、地球惑星科学から情報科学に分野を変えたのにそうなるとは。自分でもびっくりです。学内に宇宙情報センターという組織もあり、そこにも私の名前が入るようです。

さらに同じ学科には、NICTでの同僚だった(でも勤務地が違ったので顔を合わせるのが年に1度のオープンハウスくらいで、むしろTwitterの方が交流があった) 伊藤正彦 (@i_mash)先生もいます。

情報系の大学で、宇宙系の教員もいて、元指導教員もいて、札幌圏にあるという、自分のためにあるようにしか思えないような条件が揃ってます。分野を変えたり民間企業や起業を経たりして、アカデミア界隈ではわりと特殊なキャリアだったのですが、それらの経験が全てつながり、「こんなことあるのか・・・」という不思議な感覚です。Connecting the dots!

情報大では、学外での展示イベント等も積極的に行っており、これから携わっていきたいと思います。昨年度は対面イベントの実施が難しかったため、clusterのワールドを自作してイベントを開催することが多かったようです。バーチャル北海道情報大学のclusterワールドがこちらで公開されてますので、ぜひ訪問してみてください。

研究室テーマ

3年生から研究室(ゼミ)に配属され、私も初年度から3年生と4年生を計7名受け持つことになっています。修士課程に進む学生は非常に少ないのですが、学部の2年間で学会発表や学外展示などいろんなことを一緒にやっていければと思っています。実はすでに配属される学生と1度面談を終えていて、個性豊かな学生さん達で面白くなりそうだとワクワクしてます。

配属希望調査のために研究室紹介用に作ったスライドを公開します。

ユビキタスコンピューティング・HCIを中心とし、既に研究開発で必要不可欠となっている機械学習をきちんと扱っていきたいと考えています。やりたいことがありすぎてあれこれ詰め込んだ結果、かなり幅広くなってしまいました。これだけだと何をする研究室か伝わりにくいですよね。。。研究室を表す包括的な名前をつけようと思い、博士論文のタイトルにもなった「Cyber-Physical-Human Interaction」という名前にしました(博士論文を無理やりまとめたのに続き、便利な単語だ・・・)。当然これら全部に取り組むのは難しい(仮にできても時間がかかる)ので、この中から、ゼミ生の興味や外部予算の獲得状況などを鑑みて絞り込んでいくつもりです。

研究室運営

研究室を立ち上げるのは初めてで、それどころか教員として大学に所属すること自体が初めてですが、偉大な先輩教員方がいろんなノウハウを公開してくださっているので、Webページに穴が開くくらい読んで参考にしています。

特に、最初に挙げた明治大学FMS(先端メディアサイエンス)学科の中村聡史(@nakamura)先生の研究室には、非常勤の研究補助員として学科設立初年度からお世話になっていました。中村研に限らず、FMSでは多くの研究室が新たに立ち上げられ(物理的にも新しいキャンパスの立ち上げで)、その様子を近くで見ることができたのは、今思うととても貴重な経験でした。研究室によって違う色が生まれるのがとても面白かったです。この経験をフル活用させてもらおうと思っています。

共同研究

さて、研究室運営には研究費が必要です。競争的資金の獲得も頑張りますが、企業からお金を頂く形での共同研究も進めていきたいと考えています。研究室が軌道に乗るまでの当面は学生さんを巻き込んだ形態での共同研究は難しいと思いますが、私単独で行えるものや、ハッカソン・アイデアソンなどのイベント型であればお受けしたいと思っています。まだ研究室の方向性すら定まっていない状態なのですが、もし共同研究に興味をお持ちの企業の方がいたらぜひお声がけください。私個人でいままで行ってきた研究やハッカソン等での開発物は以下のScrapboxに載せています(いずれ研究室Webサイトに移す予定です)。

共同研究の価格感は、これも偉大な先輩教員方が情報を公開してくださっているので、これらを参考にする予定です。

若輩研究者がこのような価格感で受けるのは気後れする面もあるのですが、あまり下げすぎると業界全体の価格破壊につながってしまうので、ご理解いただければと思います。共同研究については、研究室Webサイトができ次第、詳細情報を掲載する予定です。

おわりに

同じ大学の先生はもちろんのこと、近い分野の研究者の方々、北海道の方々、どうぞよろしくお願いします。ぜひいろいろ交流して盛り上げていきましょう。最初はつまずくことも多そうですが、温かく見守っていただければ幸いです。今年度の科研費の採択結果もちょうど今日出ますね。これ取れてると大変ありがたいのですが、取れてなかったら本当にどうしよう。。。

干し芋

研究室立ち上げに支援するつもりで援助いただけると幸いです。

宣伝コーナー

現在、北海道情報大学では、令和4年度(2022年度)着任の教員を募集しています。よろしくお願いします!

6年3ヶ月勤めた国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)を退職しました

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6年3ヶ月勤めた国立研究開発法人情報通信研究機構 (NICT) を退職しました。退職といっても、有期雇用研究員の任期満了なので、通常の退職とは少し異なるかもしれません。また、退職エントリと言えど、もちろん業務上知り得た秘密情報などは書けないので、公開情報や一般的な情報をベースに、具体性を落とした情報や主観を交えて書いていきます。国立研究開発法人とNICTそのものの説明がだいぶ長くなったので、既に知っている方は適宜飛ばして読んでください。なお、本エントリには次の仕事の話は書いてません。明日4月1日に公開します公開しました

はじめに

NICTに就職した理由

  • 社会人博士課程を進めるのに適していたので
  • 東京の生活にちょっと飽きてたので地方に引っ越したかった(石川の生活についてもいろいろ書きたいので別エントリでまとめる予定です)

NICTを退職した理由

  • 有期雇用の任期満了なので

国立研究開発法人とは

まず、そもそも国立研究開発法人(長いので、本エントリでは国研と略します)というものをよく知らない人が多数ではないかと思うので、せっかくの機会なので国立研究開発法人について説明します。すごく大雑把に言うと、税金を原資として研究開発を行う国の機関です。Wikipediaによると、

国立研究開発法人(こくりつけんきゅうかいはつほうじん、英語: National Research and Development Agency[1])とは、日本の独立行政法人のうち主に研究開発を行う法人で、個別法によって定められたもの。

だそうです。じゃあ次は独立行政法人というのはなにかというと、これもWikipediaによると

独立行政法人(どくりつぎょうせいほうじん)は、法人のうち、日本の独立行政法人通則法第2条第1項に規定される「国民生活及び社会経済の安定等の公共上の見地から確実に実施されることが必要な事務及び事業であって、国が自ら主体となって直接に実施する必要のないもののうち、民間の主体にゆだねた場合には必ずしも実施されないおそれがあるもの又は一の主体に独占して行わせることが必要であるものを効率的かつ効果的に行わせることを目的として、この法律及び個別法の定めるところにより設立される法人」をいう。

中央省庁から独立した法人組織であって、かつ行政の一端を担い公共の見地から事務や国家の事業を実施し、国民の生活の安定と社会および経済の健全な発展に役立つもの[1]。省庁から独立していると言っても、主務官庁が独立行政法人の中長期計画策定や業務運営チェックに携わる。

だそうです。国立研究開発法人という法人格は2015年4月にでき、それまではすべて独立行政法人でした。私が入った時もまだNICT独立行政法人でした。国立研究開発法人は法人格(株式会社、合同会社、一般社団法人、NPO法人等)の一つで、法人名を書く際には(株)のように(国研)と書いたりします。

国立研究開発法人は、2021年3月時点で27法人あるようです。宇宙航空研究開発機構(JAXA)、理化学研究所(理研)、産業技術総合研究所(産総研/AIST)あたりが有名かなという気がしますが、農業系、生物系、医学系などいろんな分野にあるので、身近に感じる国研は人それぞれかなと思います。

国立研究開発法人は全て管轄省庁が決まっています。上に挙げた例では、JAXA理研文部科学省管轄、産総研経済産業省管轄です。NICTの管轄省庁は総務省です。文部科学省厚生労働省の管轄の国研が多いのですが、NICT総務省が管轄する唯一の国研となってます

国立研究開発法人は、その目的や業務内容、業務範囲が法律で定められています。NICTについては国立研究開発法人情報通信研究機構法という法律があり、これによって定められています。これは他の国研も同じで、国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構法とかもあります。

国研の職員は、「準公務員」という身分になります。これはパーマネント職員だけでなく、有期職員も同様です。「みなし公務員」と呼ばれることもあります。正式な公務員じゃないけど公務員に準ずる仕事をするという意味かと思います。もっと多くの人に馴染みのある事例としては国立大学の教職員も準公務員です。

学術界を意味する「アカデミア」という言葉は、狭義には大学と国研のことを指します。ただし、民間企業を含める場合もあり、文脈によって異なります。

NICTについて

国研の説明がやっと終わったので、ここからNICTの紹介をしていきます。正式名称は情報通信研究機構で、National Institute of Information and Communications Technologyの頭文字を取ってNICTという略称で呼ばれます。NICTは「にくと」ではなく「えぬあいしーてぃー」と呼ぶのが正しいらしく、中の人は「にくと」とは呼びません。個人的には別にどちらでもいいと思いますが。

NICTは、CRL(郵政省 通信総合研究所)とTAO(通信・放送機構)が合併して2004年にできました。総務省も2001年の中央省庁再編によって郵政省、自治省総務庁が合併してできた省庁で、国研はこの中央省庁再編にともなって再編・統合されて誕生したところが多いです。

NICTは、東京都小金井市に本部がありますが、それだけでなく北は仙台から南は沖縄まで日本全国10箇所(小金井、大手町、仙台、鹿島、横須賀、石川、京都、大阪、神戸、沖縄)に拠点があります。私がいたのは、石川県能美市にある北陸StarBED技術センターというところです。

NICTは、情報通信に関する研究をわりと何でもやっていて、無線、光通信自然言語処理、脳情報、宇宙天気、セキュリティ、ビッグデータなどなど様々な分野にまたがっています。また、日本標準時を決めるセシウム原子時計が小金井本部あり、うるう秒(地球の自転と日付のズレを解消するために、数年に1度、1秒多く差し込む)の際には、テレビなどの取材が来てニュースとして取り上げられます。日本標準時の運用を行っているのが時空標準研究室という研究室です。厨二感があってカッコいい名前ですね。

最近では、サイバーセキュリティ方面で可視化・分析システムのNIRVANAやDAEDALUSで知っている方も多いかもしれません。

国の機関なので、予算や勤務規定などなど 多くの情報が公開されています。職員数は こちら で公開されており、この表の説明を見つけられなかったので推測なのですが、全体で1200人ほどですかね(アとウを足して1600人??)。これはパーマネント職員だけでなく有期職員も含まれているはずです。パーマネント職員こんなにいないので。派遣職員は含まれてるかよくわかりませんでした。

国立研究開発法人の目的

細かいところは色々あるにせよ、企業では営利、大学では教育という、組織としてのわかりやすい目的があります。一方、国研の目的というのは結構わかりにくいと感じます。 これは実は、情報通信研究機構法という先ほど紹介した法律に書いてあります。

(機構の目的) 第四条 国立研究開発法人情報通信研究機構(以下「機構」という。)は、情報の電磁的流通(総務省設置法(平成十一年法律第九十一号)第四条第一項第五十七号に規定する情報の電磁的流通をいう。第十四条第一項において同じ。)及び電波の利用に関する技術の研究及び開発、高度通信・放送研究開発を行う者に対する支援、通信・放送事業分野に属する事業の振興等を総合的に行うことにより、情報の電磁的方式による適正かつ円滑な流通の確保及び増進並びに電波の公平かつ能率的な利用の確保及び増進に資することを目的とする。

これでも若干わかりにくいかもしれませんが、私はもう少し噛み砕いて「日本の科学技術や経済を発展させるための研究開発を行うこと」が目的だと解釈しています。それでも、この目的だと、アカデミアの論文等の成果を重視するのか、社会実装を重視するのか、どちらにも捉えられることができ、実際どちらの部署もあります。一つの部署に両方求められるとつらたんな感じですね。

NICTの職員公募

有期・テニュアトラック・パーマネント職員の公募はWebサイトに掲載されており、みんな気になる給料の話も実は募集要項に書かれています。

ある程度の幅は設けられていますが、目安にはなるでしょう。個人的な感触で言うと、アカデミアの中では結構良い方な気がします。特に、地方では、就職の選択肢が少なく給料相場も低めなので、東京と同水準で計算されますし貴重な就職先なのではないかと思います。もちろん、民間企業に行けばもっと貰えるようなケースはたくさんあるとは思いますが。それから、有期職員は研究員でも残業代が出ます。研究職で残業代がでるのはかなり珍しい気がします。パーマネント研究員になるとたしか裁量労働制に切り替わるはずです。

それから、技術系職員は博士号を持ってないと就職できないと思ってる方も多いのではないかと思いますが、研究員の他に研究技術員という職もあり、こちらは博士号不要となっています。学位要件は、修士号が求められたり、学歴不問であったり募集元によって異なるので、気になる方は必ず各公募を確認してください。研究技術員は大学の技官のような少数のポジションかと思われるかもしれませんが、そんなことはなくて、研究員と同じくらいの人数か、研究室によっては研究員よりも多いところもあります。

また、NICTで働きながら博士課程に在籍している人は、他の組織と比べると比較的多いです。支援制度があるわけではないので、表立って薦められるわけではないのですが、両立はしやすいのかなと思います。研究技術員は上述の通り博士号未取得で就く事ができるため、研究技術員として働きながら博士号を取得するというパターンもあります。また、博士号相当の研究スキルがあると見なされて研究員として採用されるケースもあり、この場合は研究員として働きながら博士号を取得します。私もNICTで働きながら博士号を取得した のですが、最初は研究技術員として就職し、途中から研究員になったので、その両方のパターンを経験しました。

総務省NICT

管轄省庁である総務省とのつながりが、当初思ってたよりもだいぶ強いという印象を受けました。総務省からNICTに出向で来ている職員もたくさんいます。NICTの運営費の大部分は運営費交付金でまかなっています。令和2年度の報告書では、3/4が運営費交付金です。大学関係者は運営費交付金に馴染み深いと思います。ちょうど先日、令和3年度予算案が参議院で可決されて成立されましたが、それがこれです。予算を可決するのは国会議員で予算案を作成するのは財務省ですが、それには当然各担当省庁が関わります。大学の場合は文科省NICTの場合は総務省となるわけで、必然的に結びつきが強くなるわけです。

NICTでは、各地方に地域連携部門が設置されて地方でハッカソンを開催したり、起業家甲子園・起業家万博 のような起業支援イベントを開催したりしています。研究開発機関なのにこんなこともやってるの?と驚かれそうですが、総務省自治省の後継省庁であり地方自治が業務範囲の一部であるため、NICTもいわゆる地方創生に関することに携わっているものと思われます。これらが行われるようになった経緯は全く知らないので、個人的推測ですが。

他の国研だと、省庁が管轄する国研が複数ありますが、総務省の場合は管轄国研がNICTだけなので、特に結びつきが強いのではないかと思います。経済産業省管轄の国研が産総研NEDOの2つなのですが、産総研(自ら研究を行う)とNEDO(研究助成を行う)を合わせたのがNICTだ、とよく冗談半分で言われていたのですが、これはなかなか的を射ている表現だと思います。

NICTの研究環境

組織的な話はこの辺にしておいて、NICTの研究環境はどうなのかという話も書いていきたいと思います。と言ったものの、1000人以上もいる組織なので、部署に依るところもかなり大きいと思います。例えば、実施するプロジェクトがすでに固まっていてそのプロジェクトを遂行する人員を募集するという場合もあれば、大枠は決まっているけど個々の研究テーマは各研究員に任されている場合もあります 。それぞれの部署がどういうところかは中の人じゃないと分からないと思います。私も、他の部署がどうなっているか詳細は分かりませんし。なので、もし就職を検討している場合には、ミスマッチを防ぐにはその部署の人に直接聞くのがベストだと思います。コネがなければ面接の時とかに聞きましょう。

研究費は、これも部署によって方針が異なるのかもしれませんが、私がいたところでは個人につく予算はなくて、部署全体の予算枠をみんなで分けるという形でした。科研費などの外部予算を取って来なくても、 論文投稿や国際会議出張に行くのには全く不自由がない程度には十分でした。情報系の研究なのであまりお金がかからないということもありますが、 機材の購入にも全く不自由することはありませんでした。

もっと大きなお金が必要な場合は、部署の次年度予算に積むことを交渉したり、機構内部の競争的資金を獲得するなどの方法もあります。外部予算を獲得するよりはだいぶハードルが低いと思います。なので、やりたい大規模プロジェクトがあり、予算使って開発委託などを活用して進めたい場合、それをNICTでやるのはすごく向いているかもしれません。もちろん大義名分の説明は必要です。一方、自分で手を動かす研究ができる部署もあるので、やはり部署とのマッチング次第で、やりたいことがある場合にはミスマッチが起こらないよう確認するのが大切かと思います

北陸StarBED技術センターでの業務

私がいた事業所は石川県能美市にある北陸StarBED技術センター*1です。私は2015年1月にNICTに就職し、最後までここで勤務していましたが、北陸StarBED技術センターには複数の部署が入っています。

最初の1年3ヶ月はサイバー攻撃対策総合研究センター サイバー攻撃検証研究室で技術員*2をしていました。2016年4月からの5年間は総合テストベッド研究開発推進センター テストベッド研究開発運用室で研究員をしていました。

サイバー攻撃検証研究室

サイバー攻撃検証研究室の技術員としての業務は非常に多岐にわたりました。メインの業務のひとつに、研究室メンバーが使うファイルサーバなどのサービスインフラの構築・運用がありました。ただ立てるだけだとあまり面白くなかったので、当時あまりきちんと使ったことのなかったDockerで各サービスを立てたりしてました。他には、サーバ(物理)やNASや40G NICUPSを発注したり、LANケーブルの配線をしたり、機器設置のための電源工事を依頼したりしてました。

コンテナ型(物理の方)データセンターの管理も業務の範囲でした。コンテナが屋外にあるので、雪が積もった日には、除雪機で敷地の除雪をしてました。除雪をずっと自分たちでやるのはさすがに辛いので、除雪を業者にお願いするための仕様書を書いたりもしました。 寒い日には鍵穴が凍ってしまって挿した鍵が抜けなくなり、お湯を持って行って鍵穴を温めて鍵を抜くということもありました。敷地内の舗装工事を発注するため、砕石路盤について詳しくなりました。コンテナに蜂の巣ができて、その撤去の立会もやりましたね。インフラエンジニアって感じです。

それだけではなく、研究用ソフトウェアの実装とかもやっていました。 Webアクセスを模倣するためにOpenFlowを使ってパケットヘッダを書き換えて疑似トラフィックを生成するソフトウェアを実装し、これは DICOMOで発表 しました。

ジョブディスクリプションとは、、、という感じではあるんですが、他では絶対できないことをいろいろ体験できて、個人的にはすごく面白かったです。

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雪の積もったコンテナ型データセンター群

テストベッド研究開発運用室

2016年4月からはテストベッド研究開発運用室に移り、役職も研究員となりました。「テストベッド(testbed)」とは、何かの試験を行う実験施設・設備の総称です。システム系などの論文を読むとたまに出てきます。NICTはStarBEDの他にも 超高速研究開発ネットワークテストベッドJGN などいくつかのテストベッドを持っており、これらはNICT内で使うだけではなく、共同研究契約を結んだ大学や企業が(おそらく全て無償で)使えるようになっています。詳細は NICT総合テストベッドのWebサイト を見てください。また、興味持った方は、上部の「利用のご相談はこちら」からお問い合わせください。(ただし、StarBEDは現在整備のため稼働停止していて、利用開始が2ヶ月ほど後になる見込みなのですが)

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StarBEDのサーバ機器群

StarBEDは、多数*3のコンピュータノード同士がネットワーク接続され、トポロジ(VLAN)を自由に組み替えて実験を行うことができるネットワークテストベッドです。研究員である私は、次世代のStarBEDを見据えたテストベッド機能の研究開発をしていました。一番長く携わっていたのが、有線接続されたStarBEDの中で無線の実験を行うための Bluetooth Low Energy エミュレータBluMoonの研究開発です。これはいくつかの学会で発表した後、先日(ようやく!)ジャーナル論文として 論文誌Sensors and Materialsにて出版 されました。

また、StarBEDのユースケースをデモンストレーションするためのシステムを他の研究員と共同でつくって展示していました。3つめのARIAは現京都大の廣井先生との共同研究です。

毎回、Interop Tokyoでの出展に合わせて作成し、その後にNICTオープンハウスなどのいろんなところで展示するというのが恒例の流れでした。国内ではCEATEC、G空間EXPO、海外ではUbiCompのデモ発表やSC、Digital Thailand Big Bangなど、いろんな所で展示できました。プライベートで国内外のMaker Faireに行くのが好きでいろんなところで展示していたのですが、その経験が活かせたかなと思います。一方で、業務として行う際には機材の輸出管理手続きをしっかり行う必要があり、その対応方法などは勉強になりました。

宇宙データを使ったハッカソンNICT SpaceHackの開催

メインストリームじゃない業務として、NICTの宇宙データを使ったハッカソンをゼロから企画して立ち上げ、イベント運営を行いました。NICTには、宇宙通信、宇宙天気、リモートセンシングなどの宇宙や人工衛星に関わる部署がいろいろあるのですが、それぞれ別部署でデータの公開方法もバラバラだったので、公開データを有効活用するための施策という位置づけです。

NICTに就職する前から、NASA SpaceApps Challenge というNASAハッカソンの運営をずっとやっており、そのノウハウを活かしてNICTで何かやりたいという思いがあり、企画しました。しばらくは、やりたいという思いだけあって、企画をどこにもっていけばいいのかわからず何もしていなかったのですが、NICT内で新規研究企画の内部コンペティションがあり、研究ではありませんがとりあえずこれに出してみました。それに通り、予算もついて機構内の正式な企画となりました。結構いろいろ大変ではあったのですが、機構内のいろんな方々に協力していただき無事開催することができました。イベントには宙畑さんに取材に来て頂き、当日の様子を大変わかりやすい記事にまとめて頂きました。

他の部署の人を巻き込んだり、上に話を通したりといった、通常はマネージャークラスで経験することをヒラの研究員が体験できたのは、すごく貴重な機会でした。この経験で、NICT内の意思決定などに関するいろんなことがよくわかりました。

フラグ回収

NICTでは、20代のうちに立てたフラグをたくさん回収したなと思います。一番大きいフラグが社会人博士だったのですが、他にもいろいろありました。

新卒で就職した東芝とその次のKoozytでは、WIDE 関係者が周囲にたくさんいました。ですが、自分自身はずっとWIDEに入ってなくて、NICTに来てようやく正式にWIDEのメンバーになることができました。

修士課程まで宇宙プラズマを研究しており、就職してから専門分野を情報系に変えたのですが、 NICTには宇宙プラズマを研究している研究室があり、そこには修士時代の先輩など以前の知人が多数いました。先述のNICT SpaceHackでも協力して頂きました。

東芝 研究開発センター時代に、直属ではなかったのですが斜め上の上司だった土井美和子さん(仕事での絡みはあまりなかったのですが通勤時に早朝の同じ電車に乗ることが多くてよくお見かけしてた。歩くのが速い。)がNICTの非常勤監事として着任されたり、NICTの名簿見ると、東芝時代の同期とか大学院の同期とか、結構知り合いがいることに気づきました。いろんな人がいますね。勤務地がバラバラなので結局1度も会うことができなかった人も多いのですが。

完全に内輪ネタですが、こういうのもありました。

2017年には、慶応SFCの徳田先生がNICT理事長に就任されました。徳田先生はユビキタスコンピューティングの第一人者で、情報処理学会UBI研究会の初代主査です。SFC徳田研の研究はとても面白いものが多く、いつも注目してました。私の研究テーマがネットワークやHCIなど幅広く手を出しており、軸足が定まらないのでそれの中間のユビキタスコンピューティング分野に軸足をおいていこうと思っていた矢先のことだったので、とても驚きました(NICTユビキタスコンピューティング分野の研究者あまりいないのに・・・)。ちなみに 徳田先生の博士論文のテーマは(分散システムの)テストベッド です。徳田先生の就任前、理事長というのは接する機会が全くなく雲の上の存在のようだったのですが、徳田先生が就任してからは、以前から知っていたため一気に身近な存在に感じるようになり、実際とてもフランクに接して頂きました。

まとめ

NICTの組織や業務内容についてつらつらと書いてきました。不満等は書きませんでしたが、もちろんなかったわけではないです。むしろいろいろあって、たまにTwitterに書き漏らしていたかと思います。手続きが多少煩雑なことは構わないのですが、どういうわけかお互いに手間だけがかかって誰も幸せにならないような手続きやルールも結構多く、もうちょっとマシにならないかと思うことは多かったです。でも、特にここ数年で、グループウェアが導入されて業務フローが改善されたり、クラウドサービスの利用可能範囲が拡大されたりして、少しずつ改善されていることは実感します。今まで勤めた組織の最長が東芝の3年半だったのですが、NICTでは6年3ヶ月勤め、組織の最長在籍期間を大幅に更新しました。どうしても耐えきれなかったらとっくに辞めてるので、辞めるほどではない許容範囲だったのだと思います。何事もやりやすい完璧な組織はないですし。

NICTはいわゆるお役所的な組織ではあるのですが、StarBEDは従業員が20〜25人だったので 、ベンチャー企業くらいの規模感ですね。私がKoozytにいたときもちょうどそれくらいでした。人数もさることながら、施設管理なども含めてわりと何でも自分たちでやる(やらないといけない)状況ではあり、そういう面ではベンチャーっぽさもあった、振り返ってみると特殊な状況でした。そもそも、お役所の形容としてよく用いられる「縦割り」は、縦割りに当てはまらない場合には結局誰かがなんとかしないといけないので、意外と柔軟性が求められる面もあります。

人生の中で自分が公務員になるということは全く考えていなかったのですが、準公務員として働くことになりいろいろ貴重な体験ができて良かったなと思います。NICT、StarBEDの関係者のみなさま、本当にありがとうございました !

*1:とても紛らわしいのですがこれは部署名ではなく事業所名

*2:当時の役職名。いまは研究技術員と呼ばれる。

*3:一時は1000台超でしたがいまはもう少し減ってます

『科学とはなにか』感想 #科学とはなにか

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佐倉統さん著の『科学とはなにか』を読んだ感想です。

自己紹介

本を読んだ背景をお伝えするため、少し長めの自己紹介から始めます。湯村 翼 (@yumu19) といいます。国立研究開発法人情報通信研究機構で研究員をやっている情報科学の研究者です。科学技術コミュニケーションにも興味があり、今年度は北海道大学の科学技術コミュニケーター養成講座CoSTEPを受講しています。

市民科学にも興味があり、ニコニコ学会βの運営に携わったり、 NASAの宇宙データをつかったハッカソン NASA International Space Apps Challenge の日本開催のオーガナイザを何度か務めたりしています。また、メイカーズムーブメントと市民科学の関係にも興味があり、世界各地のMaker Faireに行ったり、ものづくり展示イベントNT札幌 を主催しました。この辺の話について議論するため、2019年の Japan Open Science Summit(JOSS) にて「非アカデミア駆動型研究の潮流と可能性」というセッションを開催しました。その様子はTogetterにてまとめています。

このような背景に加え、「科学とはなにか」とよく考えるようになったきっかけが2つありました。

現在は情報科学が専門ですが、修士課程までは理学部で地球惑星科学を専攻しており、宇宙プラズマ物理の研究をしていました。これは、よく「何の役に立つの?」と言われるような、バリバリの自然科学の分野です。一方、修士終了後に就職してからは、いわゆる工学寄りの分野に移りました。このような経緯から理学と工学の違いについて考える機会が多く、「科学とはなにか」と考えるようになりました。

また、現在の専門は情報科学ですが、日本語では情報”科学”と、「科学」という単語がついています。これを英語にしても、直訳だとInformation Science、一般的に使われているのはComputer Scienceと、「Science」が付きます。そして、情報科学と一言で言っても、幅広くさまざまな分野があります。アルゴリズムやコンピュータアーキテクチャといった分野は、数学と同様の形式科学という側面が強いです。一方、ユビキタスコンピューティングやヒューマンコンピュータインタラクションといった分野は、コンピュータを人間社会の中でどのように活用していくか模索する研究分野なので、社会科学としての側面も強いと私は思っています。情報科学の幅の広さから、科学の中にもいろんな分野があることを実感し、「科学とはなにか」というのを、かなりよく考えるようになりました。

このように以前から抱いていた疑問「科学とはなにか」がそのままタイトルにつけられた本書を読まない理由はなく、何の迷いもなく出版後に即読みました。

全体感想

前置きが長くなりましたが、ここから本の内容の感想です。

本書は、科学という概念がどのように生まれて定着してきたか、世界及び日本で科学がどのように扱われてきたかという科学の位置付けの変遷が書かれています。

書中でも書かれている通り、個別の事象にフォーカスするよりも、「科学」という概念を俯瞰的に捉えることができます。(私の不勉強もあるとは思いますが)知らないことも多く非常に勉強になりましたし、これから勉強を進めて知識を深めていく上での足がかりとして、とても良い本だと感じました。個別の事象にフォーカスしたわけではない内容とはいえ、多くの箇所で具体的なエピソードを交えて書かれています。これにより内容がわかりやすく、交えるエピソードもとても面白いもので、全体的に非常に読みやすい本でした。

本書では、現在の科学の概念と体系がどのようにかたちづくられてきたか書かれています。

現在は、科学研究には基礎的なものと応用的なものとがあり、さらに実用に供する技術があり、というふうに科学技術のイメージが分かれているが、デイヴィーの時代には必ずしもそうではなかった。というか、世のため人のために役立つことが根本的に良しとされる倫理観が根底にあり、それを追求することが、基礎や応用を問わず、知的生産に従事する者たちの指名だと考えられていたのである。

 

一九世紀に自然科学の哲学からの独立性が高まってくると、もはや「哲学者」という呼称では広すぎて、その時代の科学をおこなっている者たちの思考方法の独自性を表現できないという意見が強くなってくる。

20世紀に生まれ21世紀に科学を学んだ私からすると、いまの科学が持つイメージに反するような事象も多いのですが、ひとつひとつ歴史を辿って当時の人の気持ちになって考えるとそりゃそうだよなという気がしてきました。

読み終わった直後のツイートがこちら。

読み終わった直後は原論っぽくないと思ったのですが、なぜ原論っぽくないと感じたかと言うと、タイトルから、「なにが科学であるか」という定義や、それを導出するための「なにが科学ではないか」と言う話を無意識に期待していたからでしょう。

Wikipedia科学 には、「(狭義)科学的方法に基づく学術的な知識、学問。」と書かれています。そしてWikipedia科学的方法 とには、科学的方法が何であるかが事細かに書かれています。きちんと理解しきれている自信はないのですが、このページはとても好きでたまに眺めています。

今思い返すと読む前はこういう話を期待していたのだと思いますが、歴史から辿るのも原論をつくる有力な方法のひとつであり、落ち着いて考えると、原論っぽくないことは全然ないと思います。

科学技術の飼いならし方と科学技術コミュニケーション

第5章、第6章では「科学技術の飼い慣らし方」と称し、科学との付き合い方が論じられています。ここはまさに全般的に科学技術コミュニケーションの話だなぁと感じました。 その中で登場する「二正面作戦」というものがあります。二正面作戦とは、「尊大な専門家主義と傲慢な反知性主義の、両方に戦いを挑む二正面作戦」というもので、原子力発電の反原発と専門家のエピソードから前置きされて導入されています。専門家、非専門家、当事者、市民をつなぐ話で、これはまさに科学技術コミュニケーションそのものの話だと思います。

昨今のCOVID-19の状況で、科学技術コミュニケーターの必要性というのはすごく分かりやすく実感できるようになったと思っています。

でも、そもそも、科学技術コミュニケーターという存在を知らない人にとっては、その必要性は浮かんでないかもしれません。そして、残念ながら世の中のほとんどの人が科学技術コミュニケーターを知らないでしょう。科学技術コミュニケーターだけが科学技術コミュニケーションを促進するわけではありませんが、その必要性が世の中に浸透し、少しずつ増えていくと良いなと思っています。

二面性作戦とメイカーズムーブメント

二面性作戦を進めるための施策として、市民科学と当事者研究の話が登場します。ここはまさに、冒頭の自己紹介で私が興味を持っていると書いた、メイカーズムーブメントと市民科学の関わりに合致するところです。

イカーズムーブメントと特に相性のよい(と私が思っている)研究分野が、ヒューマンコンピュータインタラクション(HCI)です。HCIの研究というのは、すごく大まかにいうと、人間とコンピューターの関わりの研究です。HCI研究者の渡邊 恵太 (@100kw) さんは、「使い方研究」という呼び方を提唱しています。

一方で、メイカーズムーブメントは、モチベーションは様々ですが、自分の作りたいものをつくる活動です。小林 茂(@kotobuki)さんは、これを指して「枯れた技術の水平思考*1と言っています。

HCI研究とメイカーズムーブメントの相性の良さは以前から注目しており、それゆえメイカーズムーブメントを市民科学的視点で捉えるということをここ数年やってきましたが、二面性作戦の市民科学・当事者研究の箇所の記述で我が意を得たように感じました。「科学技術の飼いならし方」というキーワードをヒントに、またもう少し掘り下げていきたいとおもいました。

*1:もともとは任天堂の故横井軍平氏の言葉です

ヒーローズリーグ2020で個人スポンサーとして湯村賞を授与しました #ヒーローズリーグ

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本エントリは MAヒーローズ・リーグ Advent Calendar 2020 - Qiita20日目です(だいぶ過ぎましたが!)

ヒーローズリーグ2020で個人スポンサーとして湯村賞を授与しました。個人スポンサーになると(スポンサー費¥10,000)、賞を出すことができるという制度になっています。

2020年のヒーローズリーグは全てオンラインで開催され、148作品が応募され、ProtoPedia に動画と解説が投稿されました。

湯村賞は以下のように定義し、ヒーローズリーグ開始時に動画で説明しました。

私の個人賞は、誰も気づかなかったような着眼点を持ち、未来を変えるポテンシャルがある作品に授与したいと思います。面白い作品というのは、今すぐ役立つものとは限らないんですけれど、5年後だったり10年後だったり、もしかしたら50年後に、そういえばあの時こういう作品があったよね、それが実現してるよね、ということがあるかもしれません。そのような可能性を感じさせるような作品を選びたいと思います。

選考の結果、Future Flicking Keyboard(FFKB)に湯村賞を授与しました。FFKBについては受賞式で簡単にコメントさせて頂きましたが、それ以外にも言及したい作品がたくさんあったので、このような記事を書くことにしました。

Future Flicking Keyboard

いま私たちがコンピュータを操作するために使っているキーボードは、元をたどると1874年に販売されたQWERTY配列のタイプライター です。もう150年くらい前に考案されたインタフェースをずっと使い続けているわけです。コンピューター自体は小型化も進み、インタフェースの形状の制約はすでにあまりなくなっているはずなのですが、いままで使ってきたインタフェースへの慣れによって、いまだに使われ続けています。

現在の入出力インタフェースは慣例や作りやすさが優先され、使う人間が体を無理やり合わせています。その結果、肩こり、腰痛、腱鞘炎などの症状を起こしています。分割キーボードのように、エルゴノミクス(人間工学)を考慮したデバイスも増えていますが、まだ既存のキーボードの延長線といったところで、もっと人間側に寄ってよいはずです。腕を机に載せずにどのような姿勢でもキーボード入力ができれば、例えば腕を下にだらんと垂らした状態で体に負荷をかけずにキー入力できます。

すでにスマートフォンとPCの一番大きな違いはスペックではなくインタフェースとなってきていたり、これからHoloLensのようなメガネ型ディスプレイの普及が進むなど、今後コンピュータに置いて入出力インターフェースがさらに重要視されていくはずで、この先10〜20年くらいで人間フレンドリーなインタフェースが続々と出てくるんじゃないかな、というのを以前から考えていました。

Future Flicking Keyboardはまさにそれを体現するような作品だと思い、湯村賞を授与しました。NAISTの大学院生とのことなので、HCI研究としての発展も期待しています。

29時間時計

時間の概念を変えたというのがいいなと思った作品です。しかもその方法がシンプルで、でも今まで思いつかなかったすごい発想だなと思いました

いま、いろんなイベントがオンラインで開催されることによって、物理的な制約が排除されました。例えば、海外の学会にすごく参加しやすくなったのですが、その一方で時差のせいで欧米で開催される学会に日本の真夜中に参加しなきゃいけないことがあります。せっかくリモートで参加できるのになぜ真夜中に起きてなくちゃいけないんだろう。という経験から、時間の扱いもこれから変わっていくのではないかと言う気がしています。居る場所は重要じゃないけどどのタイムゾーンで生活するかが重要になり、居住地に関わらずタイムゾーンを自分で選ぶような風になっていくのかなとか考えたりしていました。

時間の概念ができたのは人類の歴史から見ると最近で、例えば グリニッジ標準時が全世界で使われるようになったのは19世紀〜20世紀初期 です。なので、あと50年とか100年くらいすると、時間の概念はまたかわっているかもしれません。例えば、全世界の人がUTCで暮らすとか。などなどいろんなことを考えさせられる作品でした

即物的な利用方法としては、海外旅行前や海外オンライン会議のための時差調整に使えるなと思いました。

PCAPバトラー

ネットワークが専門分野のひとつなので、パケットキャプチャをどうやって面白くするかというのはよく考えて(この手の既存作品だと例えば光るLANケーブルがありました)いるのですが、pcapをゲームにするっていう発想はいままでまったく思いつかなかったし、ゲームと動画の完成度も高かったです。バーコードバトラーを知っているとすぐに面白さが理解できると思うのですが、これは世代によりそうな気がしますね。

冒頭で書いた湯村賞の基準からするとちょっと違うかなと思い授与対象からは外したのですが、自分の中の盛り上がりはこの作品が一番でした。大学の授業にも使えると思ったので、機会があれば活用させていただきたいと思います。(なのでサービス稼働し続けてほしいな・・・)

リモートdeキー暴動?

リモートdeキー暴動? | ProtoPedia

作品が面白いことに加え、私が以前からよく展示しているプロジェクションマッピングキーボードと相性が良い作品だなと思いました。これは湯村賞を授与すべき作品では、という気持ちがけっこうあったのですが、最終的には最初に決めた基準を重視し、そこからは少し外れると思い授与対象から外しました。

X(r/n)os

X(r/n)os | ProtoPedia

これはとにかく動画を見てください。めちゃくちゃかっこいいです。7セグ表示を物理的に制御するもので、そういう作品はいままでもいくつか見たことはありましたが、アクリル片をステッピングモーターで昇降させるという発想はなかった。

Glowing Air-Bubble Clock

これも動画を見てください。めちゃくちゃかっこいいです。京都駅のみやこみちにある 水が落ちるアート がすごく好きで、そういう作品つくれないかなーとよく考えてました。このGlowing Air-Bubble Clockは、液体を使うところはみやこみちと同じなのですが、泡という液体のない部分を表示部に使っていました。逆転の発想に(勝手に)感じ、面白かったです。あと、27年前に構想していたやつを年月を超えて実現したというストーリーもよかったです。

x10

これ面白かった。TENETが元ネタだそうで、私はTENET見てませんが楽しめました。Webアプリになっていてすぐに試せるのも良かったです。ぜひやってみてください。百聞は一体験に如かず。

おわりに

選ぶだけならすぐ決められるかなと思ったのですが、動画見るのも、そこから選ぶのも予想以上に大変でした。面白い作品がとても多く、賞を選ぶとなると見るのも真剣になるので、個人スポンサーになってよかったと思いました。

作品について一言コメントをつけてツイートしていたのをまとめたのと、品モノラジオでもヒーローズリーグを振り返っていくつかの作品について紹介させていただいたので、こちらもぜひ。