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北海道の大学教員/情報科学研究者の日記

禍転じて行動変容

f:id:yumu19:20200519082501j:plain 石川県は緊急事態宣言が解除されました。思ったよりだいぶ早かったですね。すばらしい。ただ、「出口戦略が難しい」と元々言われてはいましたが、これは予想以上に大変ですね。意思決定の判断の難しさは予想してましたが、それだけではなく、その判断に対して人々の納得感を醸成するのが難しい。世の中の怒ってる人がまた増えてきた感じがします。

さて、2年ほど前から「行動変容」というものに興味を持ち始めました。研究者の仕事というのは未来を考えることだと思っています。その未来というのは、明日かもしれないし、5年後かもしれないし100年後かもしれません。いつ役に立つかわからないことを研究することも多く、自分が生きている間にその成果を見ることができないことも起こりがちですが、私は、できれば自分が死ぬ前に自分の研究の成果を見たいと思っています。その際の障壁を壊す鍵になるのが行動変容です。技術があっても使われないというのはよくあることで、昨今のオンライン会議なんかはわかりやすい例です。技術が使われるためには、技術と同時に人間の意識が変わることも必要で、どうやったら変えられるのだろうか。ということで、行動変容が大事だと思うようになりました。

人の行動や考え方というのは、基本的にはあまり変化しないもので、若いうちに見てきたものが普遍的で未来永劫続くような錯覚を起こすということがありそうです。端的に言うと、いわゆる老害ですね。

しかし当然、江戸時代やもっと昔の人と比べると、現代の人たちの行動や考え方は全然違っています。それはどうやって変わってきたかと言うと、世代交代によるものです。親の常識と子の常識は違っていて、その繰り返しで少しずつ世の中の行動や考え方が変わり続けてきました。

ただ最近は、特にインターネットが登場した後は、技術の進化がめちゃくちゃ早くて、人の寿命の間に技術の劇的な進化が何度も起こっています。この辺の話は、昨年話題にもなった@okaji さんの記事にまとめられています。

また、最近話題になった @kunihirotanaka さんの記事からも、行動を変えることの難しさがわかります。この記事では、遅刻とはそもそも何だったのか、いつからあるのか。人が集まって仕事をするようになったのは産業革命以降で、工業を効率的にすることが目的なので、本当に今必要なのだろうか、という話が書かれています。

世代交代以外の行動変容の大きなきっかけとしてあるのは、災害です。東日本大震災の時は、地震そのものに加えて、電力不足への対策として地区ごとに順番に停電する計画停電が行われました。その結果、Business Continuity Plan (BCP) という言葉がすごく流行りました。人やデータやコンピュータなどのリソースを、東京に一極集中させずに地方に分散させて、どこかで災害が起きた場合にも全体としてビジネスを継続するというところに焦点が当てられました。簡単に言うと冗長化ですね。

今のコロナ禍(か)も禍(わざわい)の一つで、まさにBCPをどうするかという話ですが、日本全国どころか全世界で起こってしまっているので、単にリソースを地理的に分散させるだけでは不十分で、オンラインを活用したBCPを各社で取り組んでいるところですね。

コロナ禍は、非常に大きな行動変容をもたらしているのですが、あまりにも急すぎるため、 今まで成り立っていたビジネスモデルが急に成り立たなくなった業種があります。飲食店などですね。本来は5年や10年をかけて少しずつ起こるはずだった行動変容が、1〜2ヶ月で急に起きてしまいました。通常であれば、人の行動変容とともにビジネスがどんどん小さくなっていって、少しずつ辞めていくという形で移り変わって行くはずだったのが、売り上げがいきなり0になってしまい、急にな決断を迫られるということが起こってます。

オンライン化で縮小する職種がある一方で、Webサービス系など、業績に影響がなかったり、むしろ業績を伸ばしている業種もたくさんあります。COVID-19の影響に関わらず、技術の進歩ととも人間の生活がオンライン化していくことは抗えない流れだったので、これが想定よりも速く進んだ形です。Webの普及でWebデザイナーという職種が生まれたり、スマートフォンの普及でiOS/Androidエンジニアという職種が生まれたりしたように、人間がやるべき仕事というのはこれからもまだまだたくさんあります。たとえば、VR空間で生活するためには、インフラもCGもデザインもデバイスもまだまだ進化が必要で、そのためのヒューマンリソースは全然足りていません。

最後に。今回はたまたまオンラインが活用される形の災いでしたが、逆に、オンラインではダメというケースの災いもありえます。電力やネットワークなどのインフラがダウンするようなケースですね。新しい技術だけが大事なわけではなく、いつなにがあるかわからないので、多様性が大事。