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北海道の大学教員/情報科学研究者の日記

よいイベントを開催するとはどういうことか?

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はじめに

このエントリーでのイベントとは、1〜10人程度の有志で企画運営し、10〜100人程度が参加するくらいの規模のものを想定しています。いわゆるコミュニティイベント等です。ですので、商業イベントやもっと大規模なイベントとは少し違うかもしれません。

私はいままで、NASA SpaceApps Challenge、ニコニコ学会β、 品モノラボ、おうちハック発表会、NT札幌といったさまざまな形式の有志イベントの運営に携わってきました。イベント運営において何が大事であるか考えたり、人に聞かれることもあるのですが、改めて考えると難しい問いだなと思っています。

良いイベントとは?

良いイベントにするということは、「悪いイベントと感じる要素を全部取り除く」ということかなと思います。ただ言い換えただけで何も言ってないように見えるかもしれませんが、もう少し噛み砕くと、参加者や関係者が「よいイベントだったなぁ」と思うための必要条件*1は、「悪いイベントだったなぁ」と思う要素が無いということだと思います。

イベントの印象というのは、加点方式ではなくて最低点数方式で決まると思います。例えば、イベントの評価項目が10個あって各10点満点だったとします。9項目では10点だったけど1つの項目が2点だったとすると、そのイベントの評価は100点満点で92点ではなくて20点ぐらいになると思います。これはものすごく単純化したたとえですが、悪い印象の出来事があると、いくらその他の印象が良くても全体の印象が悪い印象に引きずられるということは覚えがあるのではないかと思います。*2

悪い印象というのは、その人が思う最低ラインのクオリティを満たしてないということです。この最低ラインは人によって違います。例えば、

  • 申し込みタイミングの違いで他の人より100円多く支払った
  • 視聴URLの通知がイベント開始1分前だった
  • 開始時間が5分遅れた
  • 会場が暑すぎた
  • パネルディスカッションのマイク本数が登壇人数より少なかった
  • 懇親会の料理がしょぼかった

といったような出来事があったとします。それぞれ、それが起こった時にどう思うか想像してみてください。おそらく、許容できるやつもあれば、許容できないやつもあるでしょう。どういう出来事が起こると参加者・関係者が悪い印象を受けるかは、人によってそれぞれです。

イベント運営は、校庭の小石拾いのようなものだと思っています。校庭に小石がいっぱい落ちていたとして、その全てを取り除くのは無理ですが、それでも人がなるべくつまずかないように、一個でも多くの小石を取り除くことが良いイベントづくりかなと思います。また、id:fromdusktildawn さんは鎖のたとえを用いて説明しており、まさしくその通りだと思います。このツイートがこのエントリを書くきっかけになりました。

誰のためのイベント?

なるべく多くの小石を取り除くというのは、「誰も取り残さない」というコンセプトに近い側面もあります。ただし、有志のイベント運営における「誰も」というのは、イベントの趣旨に賛同してくれて、イベントに協力的な姿勢を取ってくれる人という条件が付きます。イベントは人の集まりであり、人が集まると揉め事が起こる可能性があります。参加者が増えたりイベントの回数を重ねていくにつれ、揉め事の可能性も上がります。揉め事が起こるとイベントの印象は悪くなりますが、この際それは些細なことで、参加者が嫌な思いをすることは運営にとってとても辛いことです。ですので、ある程度の規模と開催数のイベントとなると、揉め事が起こらないようなポリシーを設定し、参加者はそれに賛同するという条件が必要となります。接客業においてクレーマーはお客様ではないというのと同様かと思います。

Code of Conduct (行動規範, CoC) と称してポリシーを明文化するイベントも増えてきました。これはとてもよいことです。ただし、CoCを厳密に運用するとすると、CoC違反かどうかというジャッジメントが必要になりますが、有志イベントでジャッジメントをきちんと運用する体制を構築することはハードルが高いです。CoCがあるということ自体が何らかの抑止力となる効果もあり、CoCは無いよりもあった方がよいです。ただし、CoCは銀の弾丸ではないということも覚えておいて欲しいです。

ベストエフォート

有志イベント運営は基本的にはベストエフォートになります。できる限り頑張るということですね。有志イベントなのでこのスタンスでいいのですが、最低限のラインを満たせないことの言い訳としてなんでもかんでもベストエフォートのせいにはしないでほしいなと思います。さきほど、イベント運営は校庭にある小石を取り除くことというたとえを出しましたが、まずは事故に繋がりそうな大きな石を取り除くことが優先です。その上で、校庭に無限にある小石を全部取り除くのは不可能だけど、それでも時間がある限り小石を取り除き続けるということがベストエフォートというかなと思います 。

おわりに

このエントリでは、イベント開催において土台となる運営(オペレーション)の部分について主に触れました。イベントの価値向上には、それに加えて魅力的な企画(コンテンツ)が重要です。ただし、イベント開催の準備において、企画が先走ってしまい運営がないがしろになってしまうことが往々にしてあるような気がします。もちろん企画はとても大事なものですが、その土台を支える運営も同等以上に大事だよ、というお話でした。

*1:十分条件ではありません

*2:この現象に心理学的な用語がありそうな気もしますが、あまり詳しくなく調べてないので知りません

社会人博士課程に入学したら研究時間を確保できるのか?

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先日、@hrjn さんのこのようなFacebook投稿を見ました。(「もっと見る」から全文読めます)

この前半部分は起業したい人の話ですけど、社会人博士の入学を検討している人にも同じ話だなあと思って読みました。社会人博士の入学について相談を受けることがたまにありまして、研究時間が確保できるなら入学すればいいんじゃないかなと思っています。自分が研究時間を確保できるのかどうかというのはなかなか客観的に判断しにくいかもしれませんが、この話は具体的なのでイメージしやすいのかなと思いました。

人間は何かきっかけがないとなかなか変われないものなので、大学院入学を生活を変えるきっかけにするというのはそれはそれでよいと思います。ただ、入学したからといって、1日が36時間に増えるわけではないので、研究時間を確保するためには何かをやめないといけないというのは意識しておくのがよいでしょう。

大学院に入学するだけでもリスク(時間やお金が無駄になる可能性)があるので、入学せずともできることをしばらくやってみて、ベンチマークしてみると良いと思います。分野依存はあると思いますが、論文読んだり調べたり、プロトタイプを作ったり、オープンデータを解析したり、解析用プログラムを書いてみたり、いろいろできることはあると思います。これも先ほどの起業の話と共通ですね。

どのくらいの時間が必要?

社会人博士入学後、具体的にどれくらいの時間が必要かというのは、 @mamoruk さんの 博士号取るのはかなり長期戦 - 武蔵野日記 に書いてます

博士号が取りたいと考えている人、どういう形で受け入れるのがいいのか、ということが少しずつ分かってきた。経験不足・力不足で申し訳ない。

結局どれくらい時間を確保できるかという問題に帰着するのだが、ざっくり言うと300-500時間で国際会議の論文1本、そこからさらに100-200時間で論文誌、みたいな感じなので、博士後期課程に入る前の研究で博士論文に組み込むことができる業績がある(論文誌掲載済み)なら最短500時間くらいでいいのだが、そうではない場合は短くても1000時間(論文誌2本分に相当)、標準的には1500時間必要であり、課程博士の人や社会人博士の人でも仕事で論文の読み書き(書けなくてもせめて論文読み)のできる人は良いのだが、そうでない場合は毎週末土日で5時間ずつ10時間もしくは平日毎日2時間ずつ5日間確保して10時間でも2-3年かかるので、かなり根気がないと難しい。しかもこの時代は時間をかけると陳腐化してしまう研究ネタも多く、論文を書くなら短期決戦で取ったほうがいい時代なので、難しさに拍車をかけている。(ちなみに本学の博士後期課程では論文博士以外は学生の期間に指導教員との共著の論文が最低1本必要)

退職D進?

働きながら研究する時間がなければ、退職D進という道もあるっちゃあります。

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昨年、情報科学若手の会で話したスライドです(私の所属などは昨年の古い情報です)

ツイッターは呼吸、ブログは深呼吸

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これからブログを週に1回ぐらい書いていきたいと思います。書きたいことはだいたいすぐにTwitterに書いてますが、Twitterに書かないようにしてることもいろいろあります。感情を増幅させるようなニュースなどですね。最近だとCOVID-19と東京オリンピック関連のネガティブなニュースはTwitterでは触れないことにしています。強く書きたいと思うことがある時はブログに書くようにしていますが、強く書きたいと思うことはなかなかないので、思っているけど外に吐き出せていないことが頭の中にずっと残ったままで、脳のリソースを無駄に占められている感じがします。なので、ブログを定期的に書いて吐き出していこうかなと思いました。

小町 id:mamoruk さんの 武蔵野日記 に少し近いのかもしれないなと思いつつ、さすがに毎日分は書けないので、週刊で。時間決めた方が良いと思うので、土曜の午前中に書くことにしようかなと思います。すぐ終わりそうな気もしますが。

デルタ株と東京オリンピック

Sars-CoV-2のデルタ株の感染力が強いというのが先日からニュースになっていますが、これ春先から言われてたはずなのになぜいまごろ騒ぎ出してるのかちょっとよくわからなくて、最近気になってます。デルタ株による感染拡大の時期が東京オリンピックの準備・開催時期と重なっていたため、ニュースのリソースが東京オリンピックに割かれていたというのがあるのかなという気がしています。運営のゴタゴタもいっぱいあったのでなおさら。感染症対策において東京オリンピック開催で問題になると想定していたのが、関係者による感染拡大、医療リソースの圧迫、国・自治体のリソースが圧迫あたりでしたが、報道の時間と人々の意識がそっちに割かれて、他のニュースが入ってこない問題もあるのだなと改めて分かりました。

少し前まではワクチンが打ち終わったら感染症対策が完了という希望が見えていましたが、いまはワクチンが打ち終わってもどうなるか分からず、先のことが見通せない状況になってるのかなと思います。その不安から世論的に負の感情が高まっているような気がします。東京オリンピックが終わって怒りの矛先が無くなったということもあるかもしれません。そもそも、ワクチン打ち終わったらどうするかという出口戦略が元々なかったようにも見えます。非常時には走りながら考えることも大事なのでそれ自体は仕方ないのですが、走りながら走ってるだけだとゴールにたどり着けないので。こういう時こそ、感染症の専門家の意見を取り入れて計画を立てて欲しいなあと思います。

大学教員になって2ヶ月が経ちました

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4月に北海道情報大学に着任 し、2ヶ月ほど経ちました。うちの大学は前期と後期の2学期制ですが、各期の前半と後半で時間割が変わるため実質4学期制になっています。いまはちょうど前期前半が終わって前期後半が始まったところです。節目ということもあり、着任直後にどのようにすごしていたか備忘録として書いておきます。

講義

想像通り、講義の準備が一番大きな割合を占めました。前期前半では、2年生のプログラミング演習(C++)の講義と、1年生向けに学内コンピュータやソフトウェアの使い方を学ぶ入門的な講義の2つを担当しました。

講義情報の管理は、Learning Management System (LMS)を使ってやっています。LMSはいまだとmoodleGoogle Classroomが多いかと思いますが、うちは moodle ベースのものを使っています。講義資料や課題などの講義情報は、過去から引き継いで少しずつ修正されてきたものがそのまま残っています。また、この学期で担当した講義は、クラスを分けて複数の教員で同じ内容を担当しているものだったので、困ったときには相談させてもらいながらできました。なので、想像してたよりははるかに労力は小さかったです。とはいえ、初めて教える内容なので当然事前準備は必要で、レポート・課題の採点もあり、それなりに大変でした。

また、今年度特有の事情として、オンライン対応がありました。講義は、4月はオンラインのみで行い、5月からは受講者の希望者が大学で対面で受講するハイブリッド形式が始まりました。しかし、5月に入ってすぐ感染症対策レベルが引き上げられ、すぐにまたオンラインのみに戻りました。ハイブリッド形式ができたのは1週間ほどで、ほぼずっとオンラインで講義を行っています。以前から想像していましたが、演習形式の講義をオンラインで行うのはすごく大変です。当日はZoomを使い、情報伝達はLSMの他にSlackを使って行っていますが、対面であればすぐできるようなちょっとしたコミュニケーションにも障壁が高く、いろいろと難しいです。これはこれでコミュニケーションスキルの向上に役立ってはいると思いますが、本来の目的であるプログラミングの習得には障壁となっています。演習課題の解説のために、コードを書く過程を載せた解説動画を毎回作ったりして、いろいろ工夫してみましたが、まだ改善の余地はあるかなと思います。

2ヶ月経ってようやく慣れてきて、学期も変わって落ち着きましたが、4月5月は、毎回の講義に遅れないようにずっと準備をしている自転車操業状態でした。

研究室運営

中村先生のnote

などを参考に、普段の連絡にはSlack、ゼミはZoomなど、いろいろなツールを使っています。全学生が大学で発行されたGoogleアカウントを使っており、これはいろんな準備が捗るのでありがたいです。まだ研究室Webサイトを立ち上げられていないのですが、近日中にJekyllを使って立ち上げる予定です。

この2ヶ月で、対面で開催できたゼミが1回のみでほぼ全てオンラインでやっているので、ゼミ生同士で顔を合わせる機会をほとんど作れておらず、物理的に全員が揃ったことはまだ1度もありません。もともとの想定では、3年生の前期と夏休みは様々なツールを一通り触ってプロトタイピングの手法を身に付けることをメインとし、後期でテーマに沿って研究過程を経験するという流れを想定していたのですが、対面できず、ツール(特に、M5Stack、Raspberry Piプロジェクションマッピングなど物理デバイスを要するもの)に触れる機会があまりつくれてません(時間が取れず準備が追いつけてないこともありますが)。そして、それよりも重大なのがコミュニケーションの機会が少ないことです。今できることをいろいろ試行錯誤しつつ、対面できる日を待ちたいと思います。

先日は、SeMI研・UBI研のLTシンポジウム をみんなで聴講しました。研究会をオンラインで聴講できるのは、北海道の大学にとって大変ありがたいので、研究会のオンライン聴講は今後もぜひ継続してほしいと思ってます。

研究費申請

大学から支給される研究費は、知人の話を聞く限りでは他大学と比べて少なくない方だと思うのですが、それでも、特に初年度は購入する備品や機材が多く、また、あてにしていた科研費(若手研究)も不採択となってしまったため、外部資金の獲得が急務です。

民間の企業や財団の研究助成はいろいろとあるのですが、昨年度締め切りで今年度支給となるものが多く、今年度応募して今年度中に支給されるものは多くが5月締切となっていました。なので、着任直後のこの時期に締切が集中しており、講義等で忙しかったのですががんばって研究代表として4件申請を出しました。基本的には個人で出せるものを選んでいたのですが、お声がけいただいて学内の他の先生と共同での申請もありました。

来年度以降は、年度またぎの助成金も申請でき、科研費の結果開示も早まり、もう少し計画的に準備できると思うのですが、申請の採否に一喜一憂することからは解放されたいので、複数年の研究費獲得や、企業との共同研究の体制を早めにつくっていきたいです。もちろん、そのための研究の種づくりも早めに。

研究

自分で手を動かして実装をしたり論文を書くのをやめるつもりはなく、特に今年度は研究室メンバーがまだほとんど3年生なので、自分で研究を進めていきます。着任してすぐ成果を出すのはなかなか難しいのですが、着任後の成果がないと何ができる人/研究室なのか周囲から見てわからないので、 早く成果を発表したいです。着任直後は自分の研究時間が全く取れないのを覚悟していましたが、5月の後半ぐらいからは少し時間が作れてきたので、本当に少しずつですが、以前から暖めていた新しい研究テーマに着手しています。やりたいことはいっぱいあるんですけど、ひとつずつ。

事務手続き

転職回数はそこそこあるのでもう慣れたものではあるのですが、組織によって手続方法が全然違うので、一つずつ調べて覚えています。なんでも一度やってみないとわからないので、早く一通りできるように、購買や、有給休暇取得など、なるべく早めにいろいろやってみています。分からないことがあったら、教職員Slackで聞くとすぐに誰かが教えてくれるので、とても助かってます。それほど大規模ではない3学部4学科の大学なので、距離感も近くて聞きやすいです。

その他

委員会があったり、オープンキャンパス模擬授業や入試監督の割当が決まったり、来年度から内容を一新する全学の講義の準備を他学部の先生方と進めたり、宇宙情報センターアントレプレナーシップセンターのメンバーとなったり、いろいろありました。

(余談)Windowsの話

基本的にはどの講義もWindowsを前提として進められます。普段使っているのはMacで、宗教上の理由*1Windowsはなるべく触らないようにしているので、講義関係のときだけWindowsを使っています。

違うOSを使い分けるのは大変なので、いっそのこと普段の環境もすべてWindowsにしてしまおうかとも思ったのですが、インタフェース(ディスプレイ、キーボード、トラックボール)を統一すればそこそこ快適に作業できることがわかったので、今後も併用していこうと思います。

Mac上でVMとしてWindowsが動かせるようになると操作的にも荷物的にもすごく楽になるのですが、今使っているM1チップのMacではx64版WindowsVM*2 には対応していないので、早く対応されることを願ってます。

まとめ

やること全てが初めてとなる着任直後のこの時期が、きっと後から振り返ってみると一番大変な時期だったと思うはずです。その一方で、着任直後ということでいろいろ免除されてることもあるはずなので、これから大変になることもいろいろあるのだとは思います。

前期の前半が終わって後半が始まったところなのですが、後半は演習の授業がなく、また、その後には夏休みがあるので、いまが1年の中でも比較的余裕のある時期です。一方、後期は演習が2つ入り、大変な時期になりそうです。なので、この時期を使ってきちんと研究を進めたいです。夏休みが楽しみ!!

*1:よくある冗談っぽく見えると思いますが、自分の時間を無闇に奪うものは極力触らないことを信条としています

*2:ARM版Windowsは動かせるようなのですが、演習でx64版バイナリを使ったりすることがあり、また、コンパイラの挙動が異なる可能性があるため、x64版Windowsが必要なのです