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北海道の大学教員/情報科学研究者の日記

専門を絞りきれない研究者が歩む「ポリバレント研究者」という道

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(写真は、先週の博士論文一次提出時の様子です)

というエントリを先日読んだ。ネットワーク分野、NICT、社会人博士という共通点が多々あることもさることながら、「研究者を標榜しながらスペシャリストを諦めゼネラリストとして生きるという選択肢は、矛盾・葛藤を孕む」というのが、まさに普段自分が抱えてる葛藤で、あなたは私か!?と思うほど大変共感しながら読んだ。

私のキャリア詳細は記述せずポートフォリオを貼るにとどめるが、地球惑星科学を専攻した後に情報科学の分野に移り、情報科学の中でもネットワーク、Human-Computer Interaction、ユビキタスコンピューティングと取り留めなく分野を選んできた。また、研究活動の場も大学、国研、大企業、ベンチャー企業と転々としてきた。

また、周囲の情報系研究者やエンジニアを見渡すと、中学生・高校生からバリバリプログラミングやってましたという人ばかり目につく。そうなると大学の授業で初めてプログラミングに触れ、仕事でエンジニアやっていたので一応プログラム書けます程度の自分の専門性の浅さを思い知らされたりもした。なので、先述のような葛藤を抱えていて、こういう専門が複数ある研究者のことをどう表現すれば良いのだろう、どういう強みがあるのだろうとよく考えていた。ジェネラリスト型研究者、と呼ぶこともできるであろうが、ジェネラリストという言葉はすでに意味が定着している上に「ジェネラリスト」と「研究者」という反対の性質をもつものを結びつけることで矛盾する感じがして、別の呼称がほしかった。ところが、以前ある概念を思いついてからなんとなく整理がついた。それが、タイトルにもある「ポリバレント研究者」だ。ポリバレントというのは、サッカーにおいて1人で複数のポジションをこなせることを意味する。イビチャ・オシム氏がサッカー日本代表監督に就任した頃に流行った用語だ。ちなみにポリバレント(polyvalent)という英単語は、「多価」という意味の化学用語である。サッカー用語としては、世界共通で使われているわけではなく、日本独自のものである。

日本人サッカー選手の精鋭を集められる代表チームであれば、サイドバックの専門家など各ポジションを極めた選手で構成した方が良いと考えるかもしれない。しかし、特に近年はサッカー戦術の発展が著しく、試合の中で一つのポジションの役割が流動的に変化する。そのため、ポジションを越えたチーム戦術の理解と、戦術に合わせた役割の変更に対応することが重要なのであろう。あとは単純に、代表チームでチームの人数枠が限られている*1ので、ケガ人や不調の選手が出るとチーム構成がままならなくなるので、複数ポジションをカバーできる選手が重宝されるというのもあるが。

この、ポリバレントという概念を研究者と結びつけることを思いついてからは、ポリバレントなサッカー選手に強みがあるように、複数の分野にまたがる研究者にも同じような強みがあるんじゃないか、と思っている。例えば、他分野の知見が必要になったとき、その分野に飛び込んでコミュニケーションをとることは、(ステレオタイプな偏見を大いに含むが)ずっとひとつの専門で続けてきた研究者の方が苦手なように見える。自分が知らない分野への敬意は大事だが、自分から飛び込まないとなかなか話が進まない。もっとひどい場合では、外から見て「あの分野はダメだ」とdisってる。一方、ポリバレントな研究者だと分野を越えることに全く躊躇いが無い。越境することができる研究者って意外と少ないので貴重なんじゃないだろうか。

研究分野のポリバレントの他にも、基礎研究から実用技術化、社会実装まで、研究のフェーズによって研究者の役割が変わってくる。こういったフェーズごとにいろんな役割をこなすという意味でポリバレントもあるかもしれない。こうなってくると、ただの器用貧乏という風にも見られるのだが、器用貧乏にならないためには分野や役割によらずにどこでも発揮できる「自分の軸」が必要なのかも。

先のエントリのスライドにあった図を見てなるほどと思ったのだけど、この「菊地の狙い目」と書いてあるスペシャリストとジェネラリストが重なるところがポリバレント研究者なのかもしれない。

追記

にて、副所長の暦本さんのインタビュー(最初の章)で

周囲の研究者とはまったく違う知識を持っていて、それを問題解決に結びつけられれば、より困難な問題の解決が可能

 

一人の研究者のキャパシティで考え続けるより、まったく違う分野の知識が入って組み合わせが起こることのほうが重要

また、所長の北野さんのインタビュー(最後の章)で

新しい研究は、一つの分野に特化するケースが多いものですが、一人の研究者が複数の分野をよくわかっているときに、新しいものが生まれる確率が高い。

 

自分の中に複数の分野の体験と知見を深く持ち、その中で越境するのが最もインパクトがある。あくまでも、自ら越境していくことで未来が拓けていくのだと思います。

とあり、ポリバレントの強みがとてもわかりやすく書かれている。実際、CSLの現メンバーに複数分野を渡ってきた人はとても多く、本書の全20名のインタビューではそのキャリアの変遷の背景や理由が深く書かれているのでとても面白い。

*1:W杯なら23人