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北海道の大学教員/情報科学研究者の日記

東京デザインウィークの火災事故と、展示イベントを運営する際のリスクについて

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ニュース等で報じられて多くの方がご存知の通り、TOKYO DESIGN WEEKというアート展示イベントで火災死亡事故が起こりました。亡くなったお子さんのご冥福をお祈りします。

展示とリスク

この事故にはとても大きなショックを受けました。丸一日経ったいまでも頭から離れず、むしろ時間とともにことの重大さが身に染みてきます。2013年のTDWでは出展者として展示し、展示物調整のために会期の10日間毎日会場に通っていたことも、深く考えさせられる大きな要因となっています。僕は、普段からものづくり関連のイベントに出展することが多く、時にはイベントを主催することもあります。いままでのイベントを振り返ってみて、本当に安全を徹底して展示を行っていたかと問われると、そうといい切る自信はありません。一歩間違えば事故につながっていたという可能性はどこにでもあったと思います。今回起こった火災は、火気を使わなくても電気を使う展示であれば起こりうることですし、火災以外にも、頭上からものが落下する可能性や、コードが首に絡まって窒息する可能性など、展示には本当に多くのリスクが潜んでいます。

いまやるべきこと

ネットでは、イベント主催者、展示制作者、展示制作した大学の教員へ批判が向けられています。情報が明らかにされていない現段階で憶測で言及するのは好ましくないですが、現時点でもいくらかの不備があったであろうことは見て取れます。しかし、無責任な立場から一方的に批判している様子を見るととてもつらく、腹立たしくさえ感じています。それと同時に、僕がその人達に腹を立てることも、批判することと同様に無意味なことだと思います。いまできることは、今後、このような事故の発生を減らし、被害を最小限に抑えることです。「事故を二度と起こさない」と書きたいところですが、完璧な安全対策はありません。できる限りの準備をした上で、常に危険やリスクを意識することが、最大限の安全対策だと思います。

展示イベント運営の安全管理

イベント主催者を擁護するわけではありませんが、運営という立場での安全管理は本当に難しく、それゆえ徹底しないといけないと感じます。自分で作ったものであれば、使われている材料や作品の特徴からリスクを把握しやすいですが、膨大な数の出展物のすべての安全性を確認するのは、ただでさえ慌ただしいイベント運営において相当な労力を費やします。イベント全体で安全性を確保するには、出展者個人の資質や経験のみに依存するのではなく、仕組みとしてリスクを排除することが必要です。そのためには、ルールを定め、周知し、そのルールが守られているかチェックすることになりますが、虚偽の報告をされた場合にはそのリスクを漏れなく見つけるのは非常に困難でしょう。

Maker Faire Tokyoでの安全管理

ここまで書いて思い浮かぶのが、Maker Faire Tokyoというイベントのことです。会場となっている東京ビッグサイトにて「東京都火災予防条例上の禁止行為」が適用されていることもあり、「使用する布は全て防炎加工マークが必要」「リチウムイオンバッテリーの使用に承認が必要」など、とても細かくルールが定められていました。Maker Faire Tokyoには出展者として毎年参加しておりましたが、これらのルールは正直に言うと面倒に思っていました。しかし今となっては、事故が起こらないよう徹底した結果であり、きちんと運営して頂いていたことに本当に頭が下がる思いです。

これからの展示イベント

よくイベントを主催している人達にとって、今回の事故を目の当たりにし、改めて展示イベントを行う危険性について認識することになったと思います。僕はいま、怖くてイベントを主催するという気持ちにはまったくなれません。しかし、楽しい気持ちにさせてくれる展示イベントが今後一切開催されないという未来は、とても寂しいです。今後また今まで以上に盛んに展示イベントが開催されていくには、何が必要で、どうやったらリスクを減らせるのか、これからずっと考えていきたいと思っています。

博士取得のタイムリミットまであと3年になりました

f:id:yumu19:20160927080609j:plain 2016年9月の最終日になりました。2010年10月に入学した大学院博士課程の社会人コースは、元々の修了予定は2016年9月(在学年限6年)でしたが、ご存知の通りまだ修了できてません。入学したときは2016年なんてまだずっと先のことだと思ってたのに、いつの間にか来てましたね。休学と単位取得退学を使った本当のリミットが2019年9月なので、残りあと3年です。

東京にいたときの4年間は、授業を履修した以外はほとんど研究できずに過ごしてました。転職したりフリーになったり会社立ち上げて畳んだりしてたからなので、自業自得なんですが。研究以外の面ではとても有意義な期間だったことに違いはないのですが、研究的には空白期間になってます。仕事と両立できないと思ったら、仕事を辞めるか大学を辞めるかすぐに決断したほうが良いのかもしれませんね。

石川に来てからやっと社会人博士らしい生活になったものの、いまだにグダグダな状態なので、気持ち的には一旦辞めて仕切り直したいくらいなのですが、入り直したとしたら修了まで短くても3年程度はかかるわけで、授業とか取り直すのもしんどいし、それならちょうど博士課程の標準年限と同じである残された3年を使ってきちんと修了するのがいいですよね。てことで、今日から入学し直したつもりでがんばります。ここまできたらやるしかないんで、やっていく気持ち。

これはなんなんだ。ポエムか。あとで黒歴史化しそうだけど、こういう感覚は後になったら忘れてしまうので書き残しておく。

こういう時に読んでやる気と元気を出すエントリ

年収800万円以下でも寿司が止まって見える装置をABPro2016で発表した #ABPro

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今年も明治大学宮下研究室主催のABProに参加しました。

自作の「普通じゃないプログラム作品」を発表しあう会,それがABProです. ぼくらが目指すのは, 人を驚かせ,笑わせ,幸せにするようなプログラムです.

5年連続5回目の参加です。

発表概要

今年は「年収800万円以下でも寿司が止まって見える装置」をつくりました。

元ネタのこのツイート*1

が好きすぎて、年収が低くても寿司を止めたいと思い、製作に至りました。本当は昨年作るはずだったのですが、時間無くてつくれなかったので、1年越しの実現。↓昨年のABPro2015直後のツイート

「作りたい!」「作ったら絶対面白い!」という思いに基づいて作ったので、「人を驚かせ,笑わせ,幸せにする」というABProのコンセプトに沿った発表ができたかなと思います。発表中のツイートを見返すと、たいへん楽しんでもらえたようでよかったです。発表後はすごい充実感でした。

ハイコンテキストなネタなので、Mashup Awardとかで賞をとるのも難しいかなと思いますが、全然気にしてません。

発表紹介

個人的に面白かった発表をいくつか紹介します。他の発表も全部面白かったので、完全に独断と偏見です。

Making Film

宮下研M2の若林(@)くんの発表。Processingとイラレを使って35mmフィルムのネガをつくって、暗室で実際に現像。新しい技術を使って古い技術を再現するコンセプトがよかった。

それの元になった、宮下研M1の秋山(@)くんの8mmフィルム動画自作もいい!

http://gutugutu3030.xyz/contents/8mmFilm/index.html

いぬけいさんき

現象数理学科B2のりゅうふじわら(@)さんの発表。逆ポーランド記法で数式を送ると答えを返してくれるbot。リーマンゼータ関数も解ける。自分が犬の国から来たという設定のプレゼン(そしてその設定をちょいちょい忘れる)がめっちゃ面白かった。

夢に向かって

宮下研M1の秋山(@)くんの発表。Fate(アニメ)の剣で剣を叩き落とすシーンを再現するために剣発射装置をつくった。あんまりうまくいってなかったけど動画が面白くてさすがという感じだった。

http://gutugutu3030.xyz/contents/Gilgamesh/index.html

RESTfulに蚊を殺す技術

FULLERのルータ芸人 末田(@)くんの発表。走るルータの話をするのかと思ったら蚊取り線香の話を聞いてた。ルータをつかって電気蚊取り線香を制御。ルータ(と蚊取り線香)ハックのレベル高くて技術の無駄遣い感がすごくよかった。

トロンボーン

spiceboxのやまざきはるき(@)さんの発表。トロンボーンに超音波距離センサーをつけてゲームのコントローラーにし、デモでドルアーガの塔をプレイ。ちょっと演奏してるっぽく見えるのが面白かった。

Bad Apple Curve!!

カヤックの岩淵(@)さんの発表。全てフーリエ記述子でBadAppleの動画を再現。デモサイトでは次数をリアルタイムに変更できてすごい!

ABPro感想

気のせいかもしれませんが、会場を見た感じ、来場者数が増えた気がします。発表者数も、飛び入りを含めると昨年よりも多かったのでは。宮下研の研究室イベントなので、あまり外の人が多くなりすぎるのはどうなんだろうというのは少し気にかかってたのですが、宮下先生が

と言ってるので、来年も全力で招待したいと思います!今年は Facebookイベント が立っていたので、いろんな人を招待しやすかったです。ぜひ来年もお願いします。

あと、懇親会でデモできるとよさそう。

発表者の人達に伝えたいのは、せっかく面白いものをつくったので、Mashup Awardなどのコンテストに出すといいと思うよ!

今年も本当に楽しませて頂きました。準備・運営してくれた宮下研の皆さんありがとうございました!

*1:これが初出かどうかはわかりませんが。先に2chで出た?

「なぜあなたの研究は進まないのか?」「なぜあなたは論文が書けないのか?」の2冊が素晴らしかった

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タイトルに惹かれ、Amazonのレビューを眺めても悪くなさそうだったので読んでみたら、めちゃくちゃ良書だったので誰かに紹介せずにはいられないので紹介エントリ書きます。研究の副読本はいままでもたくさん出ていて何冊か読んでますが、過去読んだ中でベストと言えるくらいオススメ。どちらも2016年7月に発売された新しい本で、著者は東大医学部附属病院の講師の方です。なので例文には医学・生理学系の内容が多く用いられていますが、研究に関わる人なら分野は関係なく誰にでも読めるようになっています。

それぞれ40ずつのトピックが設けられ、1つのトピックが2〜3ページに簡潔にまとまっていて、とても読みやすいです。トピックの最初に「Question」、最後には「Message」という要約が大きなフォントで書かれていて、これを見るだけでも大まかな内容がつかめ、あとで読み返す時のラベルにもなります。一気に読まなくても、1日1トピックずつ読んでいくという読み方もできそうです。

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なぜあなたの研究は進まないのか?

なぜあなたの研究は進まないのか?

なぜあなたの研究は進まないのか?

「なぜあなたの研究は進まないのか?」(以下、「研究は」)は、「研究テーマの設定」や「研究活動の困難を突破すること」について書かれており、後半にはメンタルや生活を整えるライフハック的な内容にも触れています。「研究とはどういうものか」ということがわかるので、研究を始めたばかりの学生が読んで研究活動についての理解を深めたり、研究者が手元に置いておいて研究に行き詰まった時に読み返すのによさそうです。以下、特に個人的に気になった文・フレーズを引用してみます。なるべく原文の通りに表記していますが、コンテキストの補足が必要なものなどは意味を変えないように改変しています。

  • 承認欲求が研究の第一のモチベーションになっていないか?
  • 自分は人にどう思われようと◯◯だから研究するのだ、と言い切れる確固たる自我を確立する
  • 目の前の疑問やテーマにすぐに飛びついていないか?
  • その疑問に答えることは、分野の重要な進歩につながるか
  • 研究に値するテーマかどうか見極める基準は、そのテーマが自然に出てきた素朴で素直な「なぜ?」という疑問かどうか。頭の中でこねくり回したテーマは素直でない部分がある。
  • 研究で一番役に立たないのは、過去の論文はよく知っているけど何一つ建設的なことが出てこない評論家タイプ
  • 「仮説」とは、そのように仮定すれば現象がうまく説明できるようなもの
  • 起こるとは知られていない現象が起こりうると仮定し、そのためにはこういうことが必要だ、というような研究は技術開発と仮説の証明の中間
  • ある目的に向かう「技術開発系の研究」と、仮説に問いかける「仮説証明系」の研究の違いは重要
  • これから行おうとしている実験・研究に「近い」モデル論文を見つける
  • その辛い経験は決して無駄ではない。その経験は必ずあなた自身に返ってくるし、将来指導的立場になったときにはあなたと後輩のために大いに役立つ経験だ
  • 必ず道は開ける
  • 朝起きがけの時間は本当にゴールデンタイム
  • 今やっている研究の意義と仮説を1分で説明できるか?
  • 実験・解析の労力:論文執筆の労力=9:1くらいに思っているかもしれないが、実際には6:4か5:5と言えるくらい、論文を書くことは大変で時間もかかる作業
  • 論文作成作業を開始する目安は「核となるデータ」が出たところ

なぜあなたは論文が書けないのか?

なぜあなたは論文が書けないのか?

なぜあなたは論文が書けないのか?

「なぜあなたは論文が書けないのか?」(以下、「論文が」)は、論文の執筆に必要な作業が列挙され、論文の各章「Introduction」「Materials and Methods」「Result」「Discussion」の役割を明確に書き記しています。また、こちらの本でも、論文執筆の時間を確保するためのライフハック的なトピックも取り上げられています。文章を書く技術についても触れられていますが、そこはメイントピックではなく、論文の構成の組み立て方に主眼が置かれています。文章を書く技術については、大定番の 理科系の作文技術 (中公新書 (624)) など、他の本を合わせて読むとよさそうです。以下、引用。

  • 論文作成の大部分が単純作業である一方で、まとまった時間を作って深く入り込むことで成し遂げられるパートもある
  • 朝の30分は知的作業のゴールデンタイム
  • 安易に研究に逆戻りしてはいけない。勇気を持って、可能な限り、今、手元にある材料で書き上げよう
  • 論文のテーマに関連した文献を30以上集めて目を通したか?
  • 論文の結論を1〜2行で書ききること
  • イイタイコト(=結論)は、砂漠を旅する時に常に進むべき方向を教えてくれる北極星のような存在
  • 結論というのは普通、実験結果に解釈が加わって、「結局そういうことなのか!」という概念に昇華したもの
  • 結論がはっきりしていれば、仮説または目的も自然に書ける
  • 原著論文を書く時は、仮説か目的のどちらかを明確にintroductionで述べるのが鉄則
  • 核になるデータが出たらFigureの紙芝居でストーリーを組み立てながら実験や解析を進め、それが出揃ったあたりで論文の結論(=イイタイコト)を1〜2行で書き表して論文のゴール(北極星)を明らかにし、そこに向かって書き進む
  • よいResultを書くにはデータの解釈が絶対に必要
  • Discussionは結果と結論の間をブリッジするもの
  • Resultを見れば論文の結論は明らかだ、と思うかもしれないが、それはあなたがその研究分野やあなたの出した研究結果を知りすぎていることから起きる錯覚
  • Resultと結論の間には大きなギャップがあり、それを丁寧に埋めて説明しなければReviewerや読者はあなたの論文をきちんと理解できないということを自覚すべき

「論文が」では、特に、結論を北極星に喩えているのが抜群に分かりやすいと感じました。上記に引用した文は、気になったところ全部は上げきれないのでかなり抜粋です。この他にも、いくつかチェックリストも用意されていて、論文執筆の際に役立ちそうです。

まとめ

「研究は」は研究室に配属された直後に、「論文が」は初めて論文を執筆することになった時に読み、その後も手元にずっとおいておいて行き詰った時に読み返すという使い方がよさそうです。2冊合わせても¥5,000弱なので、十分に回収できる投資かと思います。書店で探す時は、医学書のカテゴリに置いてあることが多いようです。

研究分野にそれほど依存しないように書かれていますが、当然細かい部分では分野によっての差異があり、特に論文構成などはそれぞれの分野での流儀のようなものがあると思います。とは言え本質的な部分は変わらないので、いまの自分の専攻である情報科学に当てはまるように噛み砕いて実践していきたいと思います。