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北海道の大学教員/情報科学研究者の日記

「対価」への意識がズレる理由

PEGGSという専門学校生に安価でイラスト作成を依頼できるサービスが炎上しています。
Twitterはてブやら、facebookやらで「単価が低すぎる。クリエイターをなめるな」と騒がれているのです。


このサービス、恐らく建前的には「まとめられた文章・画像は"引用"だ」ということになっているんだと思う。ところがNAVERまとめのトップページに並ぶ注目まとめをいくつか見てみればわかるように、実際は引用要件がどうこう以前の問題になっている。なんせまとめた本人が書いたと思われる文章が極めて少ないか、まったく存在しない記事の方がずっと多い。ものによっては「著作権?肖像権!?それ美味しいの?」というレベルで、日本のWebサービスとしては初期のニコ動を思い出させるようなフリーダムっぷりだ。


たまたま、立て続けにこんなエントリを目にした。これらの問題の原因を端的に言うと、「何に価値があって、どれくらいの対価を支払うべきなのかがわかりにくくなっていること」だと思う。

価値の見積もりが難しい

大昔は

  • その大根ください!(第一次産業)
  • その鍋ください!(第二次産業)

にお金を払っていたのが、

  • 使いやすくてセキュアで高パフォーマンスのウェブサーバを立ててください!
  • クールでシックでモダンでほげほげなロゴを描いてください!

にお金を払うようになってきた。お金を払う対象が、物から、物じゃないモノ(サービス・情報)に変わってきた。大根でも、鮮度や産地などによって価値に幅はあるのだが、サービスや情報は価値の幅が大きすぎる。すると、認識のズレが生じやすく、このズレが様々な問題の要因となる。


最近よく見る SIer の業界構造の問題点も、まさにこれ。受託開発や人月商売が悪に直結するわけじゃないけど、それらをちゃんとやろうとすると、正しくきっちり見積もらなければいけない。そのためには、発生する作業をきちんと列挙し、その工数を正確に算出しなければいけない。めちゃくちゃ大変。

ところが、実際参画してみると話が全然違う。そもそも前提にあった工数が貰えない。契約時点で半分近くまで減らされました。実際に開発が始まって作業量を検証すると、明らかに営業が持ってきた話よりも倍以上あったんです。


「社会が成熟すると、いろいろと多様化する」が持論なので、人が提供する価値(お金を稼ぐ方法)も多様化するのは必然なのかな、とは思うが。

会社員時代は、結果として「無駄」な時間を過ごしたとしても毎月変わらず給料が入っていました。しかし、個人事業主になってからは、お金になる仕事をした分しかお金が入って来なくなりました。「仕事をした分」ではなく「最終的にお金を回収できた仕事の分」という感じです。請求書を送付するだけではだめで、入金があってはじめて仕事が完了します。


自分が会社員だったときには、気がついていなかったことではありますが、フリーランスってこういうもんだよなぁと思う今日この頃です。


正しく見積もろうとしても、自分が経験したことのないことは判断材料が少ないので、どうしても鈍感になりがち。特に、今自分が価値のあることだと意識していないことに対しては。打ち合わせにもコストは発生するし、企画のネタ出しも、デザインのラフスケッチも。というか、時間使う=コストなので、何か作業したら必ずコストは発生する。

May_Roma さんに質問した方も、(当たり前だけど)悪気があったわけではなく、自分が要求しているモノ(情報)の価値を正しく認識できていなかっただけなんだよな。時間の価値や情報の価値って、人によってあまりに違いすぎるので。まぁ、「社会が成熟すると(ry

前払いからの脱却

今の通貨システムって、前払いが基本。「いやいや、レジで物と交換するから、同時払いじゃん」とか「レストランだと、飯食った後にお金払うじゃん!」と言われそうだけど、ヨドバシのレジでお金と交換したゲームの価値は、家に帰って遊んでみて「クソゲーじゃん!」とはじめてわかるわけだし、レストランで食べたご飯がどんなにまずくても、注文した時点で契約を結んでいるので、お金払わず出ていくと食い逃げ扱いだし(「常識」という規約に縛られているわけですね)。クレジットカードが普及して、実際に引き落とされるタイミングは購入後だったりしても、支払いの意思決定は購入時なので、前払いの本質は変わらない。

「受け取った価値に対してお金を払っている」のではなく、実際は「これから受け取れるであろうと想像する価値に対してお金を払っている」のである。前払いだと、価値の品質は担保されない。これを打ち破る、価値品質担保システムとして、食べログのような口コミサイトにはものすごく期待していたのだが、ステマ騒動でわかったとおり、今度はその口コミ情報の信頼性が担保されない。

価値の品質が担保されない前払いシステムは、情報による価値提供と相性が悪い。というか、これだけインターネットで「情報は無料」が広まってしまったら、巻き返すのは難しそう。今、またメルマガブームが再燃している気がするが、自分はメルマガはひとつも購読していない。お金を支払うのが嫌と言うよりは、単に、登録という手順を踏まなければいけないのが面倒というだけなのだが、世の中には他に素晴らしい記事がたくさんあるし、書籍もたくさんあるし、特に有料のメルマガに固執しなくてもいいかなあという気になってしまう。

いつも面白いネタを提供して下さるブロガーさんやツイッタラーさんはたくさんいるので、そういう方々に対してきちんと対価をお支払いしたいなあとは思うのだが。

「振り込めない詐欺」とは、ユーザーが自発的にお金を払いたくなるほど素晴らしい動画やツールを無償で公開した作者に対して敬意と感謝の気持ちを示すタグである。


振り込めない詐欺対策として、はてなのポイント付きメッセージ等、投げ銭システムがいろいろ出てる。これはこれで良い仕組みだとは思うが、投げ銭なので基本的に支払う側はボランタリー。支払わないほうが金銭的には得なので、支払うモチベーションがない。逃げ勝ちになってしまうので、ボランタリーな活動に対してならよいと思うが、普通の経済活動として行うならばなにか縛るものが必要。

紀元前から続く、物質(硬貨・紙幣)に紐付けた通貨システムは、そろそろ再構築できないものだろうか。金銭価値は情報なので、情報媒体(ストレージ)さえあればそれでよいはず。というか既にそうなっているし、Suica とか。

まとめ

あまりまとまってないけど、最近思っていたことを一気にまとめて書けそうだったので、つらつらと書いてみた。

素晴らしいコンテンツ(面白い記事だったり丁寧なサービスだったり美味しい料理だったり)の提供者には、きちんとその対価が支払われる。やっつけ仕事にはそれなりの対価しか支払われない。そんな真っ当な社会システムが、自分が生きている間に実現すればいいなあ、とは思う次第。

このエントリ書くのも結構時間かかったので、さすがにコレでお金とろうなんて思わないけど、スターなんかをつけたりなんかしていただけると励みになります(^^)