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北海道の大学教員/情報科学研究者の日記

ニコ技深圳観察会2016春に参加してきた

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2016/04/13〜15に、チームラボの高須 @ さん企画のニコ技深圳観察会に参加してきました。ニコ技(ニコニコ技術部)という名前がついてますが、ニコ技とはそれほど関係なくて*1「高須さんの知り合いとその知り合い」くらいの集まりです。深圳観察会は一昨年から始まり、今回で4回目です。ずっと行きたいと思いつつ予定が合わなくて行けなかったのですが、今回ついに参加することができました。

参加者は30名弱。いろんな人がいて、大手メーカー勤務やソフトウェアエンジニアや大学教員や研究者やロボットベンチャーの方や明治大学宮下研の学生やFabLabつくばのオーガナイザーなど、本当にいろんな人が集まってます。現地集合現地解散の会で平日開催ということもあって面白い人が集まりました。

参加者はレポートをブログで書くのがルールになっているのですが、過去のレポートや一緒に参加した人のレポートが読めてとてもよいルールだと思います。他の参加者の方がすでにいろいろ書かれているので、自分は観察会の内容を詳細に書くというよりは、自分が感じたことをメインに書こうと思います。観察会や深センの様子は、TogetterGoogleフォトをみると雰囲気が伝わるかなと思います。準備や深センへの行き方等の情報も、他の参加者のブログの方が充実してます。

一応回ったコースだけざっくり紹介すると以下のような感じです。

4/13(1日目)

Seeed

基板や部品を扱うメイカー的超有名企業。自社製品だけじゃなくて製造や販売したいメイカーを幅広く支援してくれます

射出成形工場

PCB工場

4/14(2日目)

ShenZhen Open Innovation Lab

政府主導のスタートアップインキュベーション施設。イベントの運営なども行っているそう。すごく綺麗なオフィスなのに、部屋の一部や階段が未完成だったりするギャップに、「できたところからオープンしてしまえ」というスピード感を感じた。

LeMaker

Banana Pi などをつくっている大学発スタートアップ。最近Huaweiの資本が入ったそう。

Makeblock

レゴのように組み合わせるだけでつくれる青いフレームが特徴的な電子工作キットで急成長中のスタートアップ。メイカー界隈では結構有名なので見たことある人も多いはず。

JENESIS

日本人社長 藤岡さんが経営する会社で、OEM製造などを請け負う。15年前から

4/15(3日目)

SEGMaker+

华强北(ファーチャンペー)のど真ん中のビルにあるメイカースペース。スタートアップがいくつか入っているそう。内装が完全にチームラボを意識してた。

HAX

元haxlr8r。世界初で世界最大のハードウェアスタートアップアクセラレータ。

华强北の電子街散策(自由行動)

いわゆる深センと言えばという場所。ビルが何十棟もならび、その中で電子部品やガジェットがひたすら売られている。使い古された表現だけど、秋葉原がでっかくなった感じ。 ビル内に店が密集しているので、延べ床面積だととてつもなく広い。本当に全部回ろうとすると数日かかる。ただ、面白いものはあるものの、大抵はどこにいっても似たようなものばかり売っている。この時は「VR CASE」というGear VRのようなカジュアルVRゴーグルが大量に売られてた。なので、「どこに行っても面白い!」というよりは、似たような店や商品の中からごく一握りの面白いものを探すという感じで、楽しいけど半端なく疲れる。

f:id:yumu19:20160416151135j:plain Photo by Takahiro HORIUCHI

こういうところで面白いものを見つける高須さんの能力はほんと凄まじい。

自分は、やたらデカイスマホ魚眼レンズと、羽根が指にあたってホームボタンが押せなくなるライトニング扇風機を購入

エコシステムの再確認

HAX、Seeed、Makeblockといった、深センを代表するにとどまらず世界を代表するようなハードウェアスタートアップ関連企業を見学できたのは、若干観光的な面もありますが本当によかった。僕は、一昨年にあるプロダクトを作ろうと思い、会社を立ち上げていろいろ調べていたという時期があります。特にシードアクセラレーターについては、当時日本ではそれほど多くなかった*2のですが、実際に応募したりもしていました。製品化については結局ほとんど調べただけで終わってしまって自分たちで動くことがあまりできなかったのですが、こうやって目の前のプロトタイプから始まり資金調達、量産、販売に至るプロセスを見て、いままでに得た断片的な知識が次々につながりました。高須さんの著書『メイカーズのエコシステム』に、「エコシステム」と入っていますが、深センはまさにエコシステムができていて、この言葉がすごく絶妙だなと感じました。

もちろん知っているのとやってみるのが大きく違うというのは百も承知ですが、今後何かつくって売りたいと思った時には、何をすればいいのか見えてきた気がします。スタートアップだけがメイカーの世界ではないですが、せっかく大企業じゃなくてもモノを作って売ることができる時代になったので、一生の内に一度は自分の手で何かつくって売りたいなと思っています。

深センと日本

海外に出ると改めて日本のことがわかるものですが、深センは街全体が「ルールを犯してでも儲かることをやる」「儲かるところにはリソースをつっこむ」「無駄なことはやらない」というスタートアップっぽさに溢れてる感じがしました。そういうところを見学してきたからというのもあるのでしょうが。そしてあらためて日本を振り返ってみると、「競争原理が作用しない」「動きが遅い」「非合理なことを人力でがんばる」という、国全体にいわゆる日本企業っぽさが溢れてるなと思いました。

深センも、最近は人件費の高騰によって倒産する工場が増え始め、品質の高い大きな工場が残るような淘汰が始まっているそうです。人件費の安い工場地帯が栄えると人件費が上がって案件がさらに人件費の安いところへ流出するというのは、ごく普通の話で、まさに日本が昭和にたどってきたモデルです。そういう意味では深センは日本の後追いをしているとも言えます。 しかし、昭和の日本にはなかったインターネットやスマートフォンクラウドファンディングがいまの深センにはあり、これらを使ってイノベーションを起こす勝負をするなら、日本のアドバンテージはあまりない同時スタートの戦いなんだなと思います。深センをみて「量産型イノベーション」というワードが思い浮かびましたが、魚の産卵のように、何が成長するかわからないものは、確実性よりも数を重視していくやり方が向いているんだと思います、Y Combinatorをはじめとしていろんなシードアクセラレーターがそうしているように。

もちろん、海外の良い面だけを見て「日本オワタ」と叫ぶのは早計で、日本は日本で良い面もあります。先日のニコニコ超会議で超歌舞伎「今昔饗宴千本桜」の素晴らしさを目の当たりにしたり、チームラボ展が世界的に大盛況だったりするのを見るにつけ、国として製造業からコンテンツ産業への移行を早々に進めていくといいんじゃないかなと漠然と思いました。「盛者必衰」という言葉が示すとおり、いつかはどこかに逆転されるのが世の常なので、勝ち続けたいのだったら戦場を変えていかないと。

研究者としてのスタートアップ文化との付き合い方

今回、コンピュータサイエンス系の研究者は東工大の長谷川先生、宮下研の学生、そして僕が参加してました。長谷川先生のレポート

はとてもよくまとまっていて、研究者としてのスタートアップ文化との関わり方を見直す機会になりました。

パートナーとしてのスタートアップ文化

研究者が自分の研究成果を製品化したいと思った時、いままでは、大企業と共同研究契約を結んだ上で、何年も時間をかけて、運良く上手くいったら製品化というプロセスだったかと思います。それが、ハードウェアスタートアップやクラウドファンディングが増えてきた土壌を活かし、研究者自身で会社を立ち上げたりして、製品化まで持っていくことが不可能ではなくなりました。大学・研究所発の研究製品化事例も、AgICXenomaMilbox TouchV-SidoUnlimitedHandCidre Interaction Design といったように次々と増えていっています。

さすがに研究の片手間という風にはいかないでしょうが、人生を全て捧げなくても、研究者人生の数年間を捧げるくらいのリソースで、自ら製品化するという選択肢が得られるようになったのは、キャリアの多様化の面でもとても良いことだと感じています。

ライバルとしてのスタートアップ文化

毎日ものすごい数のプロダクト候補がKickstarter、Indiegogoに登場します。スマホ無線LANの普及と、製造コストが大幅に安くなったことで、いままで製品化が難しかったアイディアがいま一気に製品化されようとしています。情報はインターネットで誰でもアクセスでき、3DプリンタHMDなどの特殊で高価だった道具が個人でも買えるようになり、研究者の特権がどんどん失われていく中で、数を投入して全力で殴りに来るスタートアップの人達と同じフィールドで戦っていくのはなかなか厳しいように思います。

また、いま製品化されようとしているもの中には、数年前〜20年ほど前に研究者がプロトタイプ開発し論文化していたものが多くあります。これらの昔の知見って本当に活かされているのか、というのは疑問が残ります。たぶん今全速力でプロダクトを作ろうとしてる人達って、事例調査でググるくらいはしてるとは思いますが、論文の知見からヒントを得たり、参考にしたりすることはあまりないんじゃないかな。もっと言うと、そもそもその論文まで辿りつけていないんじゃないかな。というのを考えると、研究者が数年後の未来に「何を残すのか」「どうやって残すのか」というのは真剣に考えるべきことのような気がしています(明確な答えは出ていません)。

食事

本当に安くて美味しいです。食べたもの全部うまかった。僕以外の観察会参加者もみな美味しいといっていたので、本当に美味しいのだと思います。なんでこんなに安くて美味しいかというと、たぶんうま味調味料(味の素)を大量に入れてるからだと思うんですが。人間が美味しいと感じるアミノ酸を大量投入して、味覚というインタフェースを調整するこれも一種の立派なハックなんじゃないかなと思いました。

SIM

深センは中国なので金盾でTwitterとかFacebookとか使えないのですが、香港SIMを買ってローミングすればインターネットにつなげます。僕は中国聯通香港のSIMを事前にAmazonで書い、1GBだと足りなくなったので現地でPayPalで課金して3GB追加しました。せっかく数万円かけて深セン行くので、数百〜数千円ケチって通信容量を気にしながらすごすよりも、通信容量は余るくらいに多めに課金しておいた方がよいと思う。

まとめ

楽しかった。現地とのコネがないと成立しない、絶対に自力では行くことができない場所ばかりで、本当に有益な時間で楽しかったです。高須さん、Seeedのメイさん(1日目の工場バスツアーにずっと付き添って案内してくれた)、工場やオフィスを案内してくれた皆さん、そして他の参加者の皆さんには本当に感謝です。少しの恩返しとして、SeeedやMakeblockの製品をこれからたくさん購入しようと思います(単に欲しくなったというのもありますが)。

深センや観察会に興味持った方は、ぜひ高須さんの本や、過去の参加者レポートを読んでみてください。webで見たことあるだけなのと、一度現地に行ったことあるのとでは、同じ情報ソースを見ても入る情報量が桁違いでなので、僕もこれから過去の参加者のレポートを読み返すのが楽しみです。

次は、Maker Faire Singapore!!

付録

塚谷(@)さんとやっているモノづくり系Podcast 品モノラジオ で、深セン観察会の話をしました。 YouTubeアーカイブしてます。品モノラジオはiTunesPodcastでも配信しています。iPhonePodcastアプリから「品モノラジオ」で検索すれば見つかるので、ぜひ購読して下さい!

*1:名前があることが重要なのでニコ技という名前になってるんだと思ってます

*2:いまはハードウェア向けのものも含めてだいぶ増えています