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北海道の大学教員/情報科学研究者の日記

地球惑星科学を学ぶ大学生がするべき6つのこと


自分が大学生だったら何をしたいか考えると、「起業する」という大それたものから、「いろんなバイトをする」「本を読む」「留学する」というありきたりのものまでいくつか思いつくが、何かを選択していたら別の何かを選択していなかったわけで、まあ概ね今まで辿ってきた道に満足している。


大学生の本業である勉強についても概ね満足しているのだが、やっておけばよかったと強く思うことは当然いくつかある。地球惑星科学というあまりメジャーではない学問を専攻してきたという事情も影響しているかもしれない。この「やっておけばよかったこと」6つを自分の振り返りのために書いてみるが、地球惑星科学を今まさに学んでいる大学生、そしてこれから学ぶ大学生の役に立てば幸いである。


高校地学の教科書を買って読む

これはもうmust。地球惑星科学の道に進むことになったら、必ず買って読むこと。


地球惑星科学は、高校地学で表面的・定性的に取り扱った現象について、力学等の物理の知見を使ってメカニズムを理解する学問である。地球惑星科学を学ぶほとんどの学生は高校で地学を選択していないので、どういう現象かを知らないままそのメカニズムを学ぶことになる。これは非常に大変である。まずは高校地学の教科書を読んで現象についての概要を知っておけば、非常に理解しやすくなると思う。


私は4年生のほぼ終わりに高校地学の教科書を初めて読み、上記のことを知って愕然とした。

数値計算のプログラミングをきちんと習得する

数値計算の授業でプログラミングを学ぶ機会は用意されているが、かなりの人が挫折しているように思う。結局4年生になって研究室に配属されてから改めて勉強し直すハメになるというケースは多い。さらにその先、どういう道に進むにせよプログラミングを使うことになると思うので、地球惑星科学では数少ない「役に立つ科目」である。ここできちんとやっておいて損はない。


大学の授業で初めてプログラミングを行うという人が多いので(自分もそうだった)、初めはとっかかりがなくてとても大変だと思う。周囲に詳しい同級生や優しいTAがいればラッキーだが、そうでなければ教員に聞くのもハードルが高いしなかなか進まないかもしれない(特にFortranは情報が少ないと思った)。それでも、書籍や web の情報を見ながら少しずつ課題をこなしていけば、できるようになっていくだろう。プログラミングは「道具」なので、そんなに難しいものではない。時間をかければ必ず誰でも使えるようになる。

データ処理のプログラミングをきちんと習得する

数値計算のプログラミングで Fortran や C を覚えると、その言語をそのままデータ処理でも使ってしまいがちになる。実際、Fortranデータ形式を整えて gnuplot に渡すといったことをしている人は結構いると思うのだが、Fortran は今や数値計算以外の世界では全く使われていない言語である*1。今の時代、もっと手軽に書ける Light Weight な言語がいくつもある。具体的には、RubyPerlPython 等々。これらを使わないのは非常にもったいないので、どれかひとつ選んでデータ処理用の言語として覚えるとよい。


こんなの↓もあるので、Ruby がいいのかな(無責任)。
電脳Rubyプロジェクトホームページ

うんちくを語れるようになる

せっかく皆が興味を持ってそうな分野を学んでいるので、飲み会で面白い話を提供できる程度には、一般受けする専門ネタを持っておくとよい。
例えば

  • なぜ空は青いのか
  • なぜ地震は起こるのか
  • なぜオーロラは発生するのか

など。
こういう話は授業の中で小話として教えてくれることもあるが、大抵の授業は数式をこねくり回して終わってしまうので、自分で一般向け書籍を読んで仕入れておく必要がある。言い換えると、「関連書籍をいくつか手にとって読んでみたくなる程度には、自分のやっていることに興味持ちましょうね」ということかな。


面白話の持ちネタが増えるというだけではなく

  • 自分が興味を持つきっかけになる
  • 自分の理解度を確かめる(他人に説明できないということは自分が理解していない証拠)

というメリットがあると思う。

気象予報士を目指す

せっかく、気象や気候について学ぶことができ、周囲に気象予報士がゴロゴロいるという極めて特異な環境にいるので、気象予報士の資格取得を目指して勉強するとよいのではないだろうか。もともと興味ある人は放っておいても目指すだろうから、どちらかというと興味がなかった人が目指すと良いという意味で。気象予報士の受験生は、ほとんどの人は独学で勉強し、中には高校生で取得してしまう人もいるので、もともと興味がなくても大丈夫。


持っていれば就職が保証されるという類の資格ではないが、使い方次第では就職活動を有利に進めることもできるかもしれない。気象、気候の道に進まなくても、身についた知識は教養となるし、誰でも知ってるトップクラスの知名度の国家資格であるので持っていれば自己紹介のネタにも困らない。


試験勉強にはそれなりに時間はかかると思うので、他のやりたいこととの兼ね合いで。講義の予習・復習になる箇所もあるだろうし、時間に余裕のある2〜3年生のうちに取得を目指すとよいと思う。

地球惑星科学は「実学」ではないことを知る

やや語弊のある言い方かもしれないが、地球惑星科学というか理学系全般は「実学」ではない。もっと平たく言うと、「その道で飯を食っていく場合の選択肢が極めて少ない」。


その狭き道を目指すのか、地球惑星科学で学んだ知識や手法を生かせる別の道を目指すのか、まったく違う道を目指すのか。いつか選択に迫られる時が来る。すぐに決める必要はなくて、学びながら考えていけばよい話ではあるが、どういう選択肢があるのか知っておくと良い。そしてそのために、自分がやっていることがどういう「実学」と結びついているかを知っておくととても参考になる。


私の場合、「プラズマ」というキーワードをもとにたどってみた(卒業後にだが。。。)。


なお、私は、「実学でない」研究を行うことが無益だとは思っていない。なぜその研究をする(したい)のか、周囲を納得させうる理由を考え続け、見出すことが重要なのではないだろうか。

12. 「まだよくわかっていないから」は研究プロジェクトを立ち上げる理由として不十分
よくわかっていないこと はほぼ無限に存在する.この宇宙に満ち満ちたよくわかっていない現象のうちから,研究対象としてひとつを選ぶ明確な理由がなければならない.

想像力より高く飛ぶ: "成功した大学院生になる"


(原文)

“Because it is poorly known” is not an adequate reason for choosing a dissertation project.
There is an almost infinite number of things that are poorly known. You must have a clear reason in your mind why, among the many poorly known phenomena in this universe, you have chosen a particular one for your research. Why is it a fundamental question?

John N. Thompson, ON BEING A SUCCESSFUL GRADUATE STUDENT IN THE SCIENCES (Version 8.1)

*1:「学生の時は Fortran を使っていました」というと大体驚かれる