Twitter の日本語ハッシュタグ #北海道あるある に触発されて書いてみる。
わりと有名な話だと思うのだが、北海道弁には「押ささる」という言葉がある。
方言なので、その意味を尋ねられるのだが、説明が難しい。難しいというよりは説明が面倒くさいのかもしれない。
意味は、次の2つである。
- 「押すことができる」(可能)
- 「(自然に,意図せずに)押される」(
使役自発)
さらに、「押ささっている」(= 押された状態にある) などという活用もできて、非常に便利な言葉である。そのため北海道民は日常的に使っている。
便利だと感じるのは、他の言葉で置き換えができないからなのだろう。そして、他の言葉で置き換えができないから説明が難しいのだろう。
この「押ささる」という単語をどう説明すればいいか日々頭を悩ませていたが、ある日、以下の関係が同じであることを発見し、これを用いて説明すればわかりやすいことに気づいた。
- 「押す」⇔「押ささる」
- 「刺す」⇔「刺さる」
「刺さる」という言葉は標準語で、意味が「刺すことができる」「(自然に,意図せずに)刺される」であることは皆知っているし、「刺さっている」(=刺された状態にある)という言い方もできる。このことから「押ささる」の意味が感覚的に類推できるだろう。
- 「壁が硬くて画鋲が刺さらない」
- 「指にトゲが刺さった」
みたいに
- 「ファミコンのコントローラのボタンが堅くて押ささらない」
- 「ポケットにケータイ入れてたらボタンが押ささった」
って使える。ほら、便利でしょ。*1
というか、逆に考えるんだ!!もし「刺さる」という動詞がなかったら、と。「画鋲、壁に刺さる?」という質問は「画鋲、壁に刺すことできる?」と言わなければいけない。ああなんて面倒な言い回しなんだ!
ということで、北海道弁「押ささる」は便利すぎるので標準語にするべき。
参考文献
○○さる
「書かさる」とは「書いてしまう」「書ける」といったような意味。「あ、このボールペンまだ書かさるわ〜(インクがないと思っていた)」「書かさらないわー(書くことができないよ)」といった用法でも使われることがある。応用で「書かさっちゃう」とは、「意思に反して」「わざとではない」「間違って」といったニュアンスがある。道産子はこの「書く」だけにとどまらず、「足ささる(足してしまう)」「押ささる(押してしまう)」「押ささらない(押しても無反応)」「打たさる(打ってしまう)」「見らさる(見てしまう)」なども使う。
書かさる、足ささる、は使うかも。
例.「何かぁ〜、Excel のこのセルに入力したらぁ〜、値が足ささっちゃうんですけどぉ〜」
21. 受動的自動詞派生型【-U(他)>-ARU(-ORU)(自)】
刺す>刺さる、増す>増さる(勝る)、塞ぐ>塞がる、挟む>挟まる
標準語で似たような動詞がないか調べてみたが、あまりなくて、これくらいだろう。
佐々木冠 (2007)「北海道方言における形態的逆使役の成立条件」『他動性の通言語的研究』角田三枝・佐々木冠・塩谷亨編. 259-270. くろしお出版
北海道方言の自発構文(V-rasarが述語、例:「書かさる」など)の逆使役用法(自動詞を派生する用法)の成立条件を2005年に行ったアンケート調査に基づいて分析した論考です。
- 作者: 角田三枝,佐々木冠,塩谷亨
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ちゃんとした研究としても調査されてるようだ。
- 作者: 西本伸顕
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*1:まあ、押すものってボタンくらいなんですけどね・・・