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北海道の大学教員/情報科学研究者の日記

CoSTEP16期開講式 〜 科学技術コミュニケーションとは何か? #costep

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北大博物館で展示されている化石
もう一週間経ってしまったのだけど、先週末にCoSTEP16期の開講式がありました。ガイダンス、初回講義、特別講義を半日くらいかけてオンラインでやりました。例年は懇親会なども含めて2日間でやるものだそうです。めちゃくちゃ面白かったので、このときの感動した気持ちを消えないように書き留めておきます。

科学技術コミュニケーションとは何か?

初回講義は、川本思心先生の「科学技術コミュニケーションとは何か?」。本当に面白かった。科学技術コミュニケーションについて興味があったので受講したので、面白いのは当然といえば当然なのかもしれないが。科学技術コミュニケーションについて断片的に知っていることや実践してきたことが、体系的な知識として身につくような感覚が得られた。90分の講義だったけど、もっとずっと、4時間でも5時間でも聞いていたかった。

講義の冒頭では、「科学技術コミュニケーションとは?」という問いが与えられた。この問いへの答えを各自書き留めておき、約1年後のCoSTEP修了時に見返し、どう変わったかを振り返るそうだ。自分の答えは「科学技術について、専門家以外の人へ、わかりやすく、正確に伝えること。」。ただ、初回講義が終わった時点で、この答えは科学技術コミュニケーションの一部に過ぎないな、と既に思う。

トランスサイエンス

初回講義が面白かったので、その中で紹介されてた昨年のCoSTEPの見上公一先生の講義「トランスサイエンスと科学の境界線」のアーカイブ動画を、講義終わった直後のその日の夕方に観た。いままでトランスサイエンスという概念を知らず、とても勉強になり非常に面白かった。講義を聞きながら取ったメモは2600字を超えていた。

トランスサイエンスは、科学と政治が重なる領域。科学の知識は必要だが、科学だけでは解決できない問題。今のCOVID-19がまさにそれだし、CHIで見かける市民や社会と協業する社会科学的アプローチの研究にも通じる。トランスサイエンスについて、このエントリがわかりやすい。このエントリもCoSTEPのレポートの下書きだそうです。

講義の参考資料。

CoSTEPの沼

私が受講している選科だと、3日間の集中演習がある以外は講義のみなので、90分の講義を年間27回受講し、800字のレポートを6回提出するだけで、それほど負担なく受講できると思っていた。実際、最低限こなすだけならそれで済むだろう。しかし、過去2年分の講義アーカイブを観ることができ、その中には、絶対観たいと思う面白そうなものがたくさんある。さらに、紹介される関連文献も読もうとすると、時間がいくらあっても足りない。これは沼だ。

研究と科学技術コミュニケーション

研究と科学技術コミュニケーションは別物なので、研究者は科学技術コミュニケーションについて専門的に学ばない。何かしらの形で実践している研究者でも、体系的に学ぶ機会はあまりないだろう。自分は、科学技術コミュニケーションに興味持って関わっている方ではあると思うが、それでも新たに学ぶことがとても多かった。

すべての研究者が科学技術コミュニケーターになる必要はないが、科学技術コミュニケーションがどういうものであるかは、研究者は知っておくとよいなと感じた。科学技術コミュニケーションについて伝える役割「科学技術コミュニケーションコミュニケーター」が必要だな、と思った。*1

おわりに

「科学技術コミュニケーション」という興味を持っていたことが体系的に次々と説明されていくことが、本当に面白い。高校物理で物体の位置と速度が簡単な数式で表せることを習った時や、IPやイーサネットの通信の仕組みを知った時のような感動がある。

講義資料の参考文献に挙げられている文献を全部読めば、同様の知識は得られそうだけど、全部読むにはめちゃくちゃ時間かかるし、そもそもこの講義資料がなければこれらの文献にたどり着くまでにさらにめちゃくちゃ時間と労力がかかる。これこそ「知の高速道路」である。大学の講義はすごいなと改めて実感した。

*1:大学院生や教員向けに講義やってる大学もきっとあるのだろう

禍転じて行動変容

f:id:yumu19:20200519082501j:plain 石川県は緊急事態宣言が解除されました。思ったよりだいぶ早かったですね。すばらしい。ただ、「出口戦略が難しい」と元々言われてはいましたが、これは予想以上に大変ですね。意思決定の判断の難しさは予想してましたが、それだけではなく、その判断に対して人々の納得感を醸成するのが難しい。世の中の怒ってる人がまた増えてきた感じがします。

さて、2年ほど前から「行動変容」というものに興味を持ち始めました。研究者の仕事というのは未来を考えることだと思っています。その未来というのは、明日かもしれないし、5年後かもしれないし100年後かもしれません。いつ役に立つかわからないことを研究することも多く、自分が生きている間にその成果を見ることができないことも起こりがちですが、私は、できれば自分が死ぬ前に自分の研究の成果を見たいと思っています。その際の障壁を壊す鍵になるのが行動変容です。技術があっても使われないというのはよくあることで、昨今のオンライン会議なんかはわかりやすい例です。技術が使われるためには、技術と同時に人間の意識が変わることも必要で、どうやったら変えられるのだろうか。ということで、行動変容が大事だと思うようになりました。

人の行動や考え方というのは、基本的にはあまり変化しないもので、若いうちに見てきたものが普遍的で未来永劫続くような錯覚を起こすということがありそうです。端的に言うと、いわゆる老害ですね。

しかし当然、江戸時代やもっと昔の人と比べると、現代の人たちの行動や考え方は全然違っています。それはどうやって変わってきたかと言うと、世代交代によるものです。親の常識と子の常識は違っていて、その繰り返しで少しずつ世の中の行動や考え方が変わり続けてきました。

ただ最近は、特にインターネットが登場した後は、技術の進化がめちゃくちゃ早くて、人の寿命の間に技術の劇的な進化が何度も起こっています。この辺の話は、昨年話題にもなった@okaji さんの記事にまとめられています。

また、最近話題になった @kunihirotanaka さんの記事からも、行動を変えることの難しさがわかります。この記事では、遅刻とはそもそも何だったのか、いつからあるのか。人が集まって仕事をするようになったのは産業革命以降で、工業を効率的にすることが目的なので、本当に今必要なのだろうか、という話が書かれています。

世代交代以外の行動変容の大きなきっかけとしてあるのは、災害です。東日本大震災の時は、地震そのものに加えて、電力不足への対策として地区ごとに順番に停電する計画停電が行われました。その結果、Business Continuity Plan (BCP) という言葉がすごく流行りました。人やデータやコンピュータなどのリソースを、東京に一極集中させずに地方に分散させて、どこかで災害が起きた場合にも全体としてビジネスを継続するというところに焦点が当てられました。簡単に言うと冗長化ですね。

今のコロナ禍(か)も禍(わざわい)の一つで、まさにBCPをどうするかという話ですが、日本全国どころか全世界で起こってしまっているので、単にリソースを地理的に分散させるだけでは不十分で、オンラインを活用したBCPを各社で取り組んでいるところですね。

コロナ禍は、非常に大きな行動変容をもたらしているのですが、あまりにも急すぎるため、 今まで成り立っていたビジネスモデルが急に成り立たなくなった業種があります。飲食店などですね。本来は5年や10年をかけて少しずつ起こるはずだった行動変容が、1〜2ヶ月で急に起きてしまいました。通常であれば、人の行動変容とともにビジネスがどんどん小さくなっていって、少しずつ辞めていくという形で移り変わって行くはずだったのが、売り上げがいきなり0になってしまい、急にな決断を迫られるということが起こってます。

オンライン化で縮小する職種がある一方で、Webサービス系など、業績に影響がなかったり、むしろ業績を伸ばしている業種もたくさんあります。COVID-19の影響に関わらず、技術の進歩ととも人間の生活がオンライン化していくことは抗えない流れだったので、これが想定よりも速く進んだ形です。Webの普及でWebデザイナーという職種が生まれたり、スマートフォンの普及でiOS/Androidエンジニアという職種が生まれたりしたように、人間がやるべき仕事というのはこれからもまだまだたくさんあります。たとえば、VR空間で生活するためには、インフラもCGもデザインもデバイスもまだまだ進化が必要で、そのためのヒューマンリソースは全然足りていません。

最後に。今回はたまたまオンラインが活用される形の災いでしたが、逆に、オンラインではダメというケースの災いもありえます。電力やネットワークなどのインフラがダウンするようなケースですね。新しい技術だけが大事なわけではなく、いつなにがあるかわからないので、多様性が大事。

すべてがオンラインになる 〜 オンライン学会に本当に必要だったもの

f:id:yumu19:20200509152631j:plain 会議とかイベントとかいろんなものがオンラインになっているけど、すべてがオンラインになると、居住地というのはただの属性のひとつになって、特に重要な情報ではなくなるんだな。知っておくと便利だけど、知らなくても特に問題ない。出身地とか出身大学とかと同程度の情報。「なんで高い家賃払って東京に住んでるんだ・・・」と思う人も増えてきましたよね。

居住地に関して、タイムゾーンというのは重要情報なんだけど、正確には、タイムゾーンというよりも、いつ起きていつ寝ているのかという情報が重要なのだな。同じタイムゾーンでも活動時間違うひとたくさんいるので、居住地によらずにタイムゾーンを自分で選択して他の人へ表明できるとみんな幸せになりそう。睡眠相後退症候群 とか。さらに、LEDで人工太陽を作れば、意図的に自分のタイムゾーンを変更することもできそう 。そもそも今われわれが夜間でも活動できるようになっているのは、電灯という人工太陽のおかげ。

とか考えていると、いま、オンライン国際学会に参加するために世界各地の研究者達が夜更かししたり早起きしたりして開催地(だったはずの場所)に合わせて生活しているのが、すごいナンセンスな気がしてきた。ここは、非同期コミュニケーションでなんとかするところなのでは。同期コミュニケーションによって得られる情報量が圧倒的に増えるのであれば検討の余地があるけど、現状のオンライン学会で同期コミュニケーションができて嬉しいことは、せいぜい口頭で質問できるくらいだよなあ。それならテキストチャットとそんなに変わらないし、掲示板(BBS)でも立てておけばいい。英語非ネイティブにとっては口頭よりもテキストのほうがコミュニケーションとりやすい。

オンライン学会の大きな課題として「休憩時間の雑談ができない」というのがよくあげられるが、掲示板をうまく活用すればこれを解決できそうな気もする。発表者と聴講者の一問一答のコミュニケーションだけであればSli.doみたいなものでもいいのだけど、継続的な議論や聴講者同士のコミュニケーションができない。Slackはいまではスレッドも立てられるので機能的には近いかもしれないけれど、議論に加わる人はSlackにjoinしないといけなくて、joinする前は中身が見れないので、中でどういう議論が交わされているのか知らない状態でjoinしないといけなくてめちゃくちゃハードルが高い。 URLを知っていれば見れるという掲示板の障壁の低さは、Slackでは実現できない。

そもそも、掲示板は最近ほとんど見かけないが、何のサービスに取って代わられたんだろう。 コミュニケーション目的であればSNSで代用できるけど、掲示板は人ではなくトピックに集まることもある。現状だとFacebookグループかSlackか。でもそれだと実名やアカウントに結びつくので、匿名の発言はできない(匿名の良し悪しはおいておいて)し、知人以外にアカウント知られたくなかったりするだろうし、ハードル高い。いま、5chのような巨大サービス以外で掲示板システムが残ってるのって Hacker News くらいしか思い浮かばないな。

掲示板というのは最初はネタで書いたのだが、オンライン学会に必要なものは掲示板という古のサービスだったのでは、と本気でそう思うようになってきた。

北大CoSTEP(選科)合格しました

f:id:yumu19:20180905141846j:plain 応募してた北海道大学 科学技術コミュニケーター養成プログラム (CoSTEP) 合格したので今年度1年間受講します。選科Bです。

CoSTEP is 何?

科学技術コミュニケーター養成プログラム (CoSTEP) というのは、名前の通り、科学技術コミュニケーターを養成するプログラムです。。まだ受講していないので詳細は把握していませんが、科学技術コミュニケーションに関する概論や方法論を学びます。例えば、サイエンスカフェのようなイベントの企画や、サイエンスライティングについてです。北大関係者だけではなく、誰でも応募することができます。北大が正式に主催するコースですが、学位が授与されるわけではありません。詳細はこのリンクを見るとわかりやすいです。

修了生には元RAGFAIRの奥村さんとかもいます。

CoSTEPには本科と専科の2種類のコースがあります。 本科: 講義+演習+実習 選科: 講義 + 集中演習 私が受講するのは専科の方です。選科は集中演習以外はすべてe-Learningで受講することができ、遠隔で進められます。北大で受講してもよいので、都合が合う時は行こうかなと思ってたんですけど、そもそもこういう状況(COVID-19)になってしまったので、少なくともしばらくは行けなさそうです。

CoSTEPができたのが2005年で、当時北大の4年生で面白そうだったので申し込んだのだけど落ちて(当時は大卒以上が対象だった)、それ以来気になってて博士課程終わったら受講したいと思ってて、昨年度でようやく博士論文が終わったので、今回15年ぶりに申し込んだのでした。

選科では90分の講義が週に1回あり、そのレポートを提出します。e-Learningなので、まとめて受講することも可能です。博士論文が終わったとはいえ研究やその他の活動との兼ね合いで時間取れるかどうか心配だったのですが、説明会で受講やレポートのボリュームを聞いて、それほど無理なく受講できそうな気がしました。さらに今年の場合、出張やイベントがしばらく中止になったことで時間がとりやすくなりました。本科の方はもっと忙しいのですが、編集やデザインなどの演習があるのは本科だけなので、いずれは本科も受講したいなと思ってます。

応募した理由

応募書類に「志望理由書」と「課題文」があり、それを見てもらうのが早いと思うので、貼ります。それほど長い文章ではないので、書きたいことを書ききれていない面はあるのですが、それでも、普段漠然と考えていることを他の人に伝わるように一度まとめるよい機会になりました。

志望理由書

北海道大学科学技術コミュニケーター養成プログラムで学びたい理由、学びたいこと、また、修了後学んだことをどう活かそうと考えているかを整理し、以下に記してください。(500字以内)

私は、グラフィックデザイン、映像、文章、プレゼンテーションなどの「見せ方」に関するスキルを学びたいと考えています。これには二つの理由があります。

一つは、本職である情報科学の研究へ活用するためです。研究活動では、研究成果発表はもちろんのこと、研究費獲得など様々な場面でプレゼンテーションを行うことが多く、そのスキルは非常に重要です。また、現在専門にしている無線ネットワークは、身近であるものの目に見えないため、特に一般向けの展示会などでの解説に苦労します。背景知識が無い方へもわかりやすく解説するための表現方法を身に付けたいと考えています。

もう一つは、イベント運営へ活用するためです。本業とは別に、NASAの宇宙データを使うハッカソンや、ものづくり展示イベントなどの運営を有志として行っています。イベントでは、内容が大事なのはもちろんのこと、「知ってもらう」「興味を持ってもらう」ことができないと、そもそも参加してもらえません。開催するイベントにより多くの方に参加してもらうためには、広報文章やフライヤーなどの広告素材が重要となるため、これらの作成スキルを高め、より良い情報発信をしたいと考えています。

課題文

科学技術コミュニケーションに関わる問題を1つとりあげ、解決へ向けて今後自分がどんな役割を果たしたいかを述べてください。(800字以内)

私は、非職業研究者が科学技術についての発表や議論をする場がないことを問題と考え、これを解決するような場をつくりたいと考えています。

大学や研究所に所属する職業研究者は、学会で発表したり論文を投稿したりすることで科学技術について議論します。学会発表や論文投稿は、職業研究者だけではなく、非職業研究者も行うことはできますが、高額な参加費や投稿費が必要なことや、発表や執筆を行う労力の大きさなどから、非職業研究者にとって非常に障壁が高いです。サイエンスカフェのように一般市民が科学技術に触れる場も近年増えています。しかし、学んだ結果をまとめて発表したり意見を交換するような、学会に相当する場はあまりありません。

この問題の解決の糸口は、ソフトウェアエンジニアリングの世界の文化にあるのではないかと考えます。その特有の文化であるオープンソースソフトウェア(OSS)開発は、トップレベルの職業エンジニアも趣味プログラマも垣根がなく、ソースコードを書くことで誰でも開発に参加できます。また、もうひとつ特徴的な文化が勉強会です。勉強会の開催様式は様々ですが、例えば、調べたことや実装したことをプレゼンテーション形式で発表するという形態が取られます。OSS開発や勉強会でのつながりは、所属組織の垣根を超えたコミュニティとなっています。

このようなソフトウェアエンジニアリングの世界の文化を、自然科学などの他の科学技術分野へも拡張し、誰でも自由に発表し職業研究者と非職業研究者の垣根なく議論するような場をつくれないかと思案しています。私は昨年、電子工作やロボットなどの趣味として作った作品を見せあう展示イベントNT札幌2019を開催しました。NT札幌を拡張する形か、それとも別のイベントとしてかはわかりませんが、自然科学などに関しても、調べたり実験したことを見せあう場をつくっていきたいと考えています。