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北海道の大学教員/情報科学研究者の日記

ペンギンもクジラも秒速2メートルで泳ぐ


ペンギンもクジラも秒速2メートルで泳ぐ―ハイテク海洋動物学への招待 (光文社新書)

ペンギンもクジラも秒速2メートルで泳ぐ―ハイテク海洋動物学への招待 (光文社新書)


東大海洋研の准教授の佐藤克文先生の本。
前に情熱大陸にも出てた(のを見たことがあったのだが、同一人物だと気づかず、本のほぼ終わりで気づく)。


ウミガメやペンギンやアザラシにデータロガー(速度計、加速度計、カメラ etc. )を取り付けて研究を行っている。
このようなデータロガーを使った研究は、バイオロギングサイエンスと名付けられているそうだ。


本では、データからわかった、「ウミガメ(爬虫類)は実は恒温動物である」といった研究成果が紹介されている。生物学の学問上の分類はよく知らないが、おそらく動物行動学や動物生理学に関する成果で、高校レベルの物理の数式を使ったりしてわかりやすくまとめられている。


科学的成果だけではなく、南極へ幾度も足を運んだ経験から南極での生活の様子や、データロガーを動物に取り付ける際の苦労話などが、各章の最後にコラムとしてまとめられていたり本文の中にも散りばめられていて、これだけでも十分に楽しめる。


と、本の内容で十分に薦められるのだが、さらに素晴らしいと思ったのが、あとがきに書かれていた、主に将来研究者となる若者へのメッセージである。特に、「なんでも鑑定団」での鑑定家の中島さんの言葉の引用が印象に残ったので、以下に紹介する。引用の引用になってしまうが。

将来鑑定家になりたいというその中学生に対して、鑑定家の中島誠之助さんが、実によいことを言っていた。曰く、「中学生のうちから将来なりたい職業を限定せず、よい本を読んで幅広く勉強してください。すばらしい青春時代を過ごしたあとになお骨董の道に進みたいのであれば進んだらよい。この鑑定家の席はいつでも明け渡す用意がある」といって忠告していたのである。


この言葉に全て詰まってるよな、という気がした。小さい頃からの夢を叶えるために真っ直ぐ進んでいくのは素晴らしいことなのだが、小さい頃の夢なんて身の回りの数少ない選択肢から選んだものに過ぎない。固執し過ぎずに視野を広く持つことはそれ以上に重要。


生物系の研究者、フィールド系の研究者がどういう風に研究活動を進めているのか知れるので、多分野の研究者が読むと面白いかな。地球物理だとフィールド系の研究者が結構いたので割と近いのかもしれませんが。


ちなみに、タイトルにはクジラが出てくるが、中身にはほとんど出てこない。キャッチーなタイトルなら他にいくらでも付けられそうなので、別のタイトルにすればよかったんじゃないかと他人事ながら思ってしまった。